140 / 215
第140話
寄せては返す波の行方に目を凝らしていると、隣の流木に腰掛けた唯斗と視線が混じる。クインは波打ち際でアレンとともに水を掛け合っている。それをやれやれと保護者のように見つめる二人の影が砂浜に落ちていた。ざざん、ざざんとひっきりなしに鳴る波の音を聞きながら海の声に耳を澄ます。二度目に見る海も夕日に照らされて綺麗だと秀治は思った。生きていなければ二度と見ることができなかったであろう景色。それを堪能していると、唯斗が頬を掴んでくる。夕陽に照らされながら長いキスをした。とろけそうな幸せなキスに浸っていると、あー! とクインが叫ぶ声が遠くで聞こえた。そして忙しない音を出してこちらに近づいてくる。ぱっと秀治は唯斗の唇から離れた。ほんとはもっとしていたかったけど……。
「もっとちゅーしてくれても良かったのに」
子どものような笑みを浮かべてクインが迫ってくる。義則が後をつけてきて歩きづらそうに砂浜を踏む。波打ち際で何かを囁く拓馬の姿が見えた。そして、アレンがその首に手をまわし熱いキスを交わし始める。もう一度叫ぶとクインは義則の胸元を掴んで乱暴にキスをした。
「江ノ島に連れてきてくれてありがと」
そっけなく言う素直じゃないクインが面白くて吹き出していると、ぐりぐりと胸に頭を擦り付けられた。クインなりの照れ隠しらしい。
風も冷たくなってきたので、そろそろ帰ろっかと唯斗に肩を抱かれる。服越しでも伝わるあたたかい手のひらを感じながらホテルに戻った。
ともだちにシェアしよう!

