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第154話

「何がおまえを変えた?」  探るような目つきでこちらを見据える降谷の肩が微かに震えている。ハンドルを握る手もじんわり汗をかいているように見えた。 「人はほんとうに変われるのか?」  恐ろしいほど冷えた声で降谷が呟く。明らかに様子がおかしい。  ゆっくりと滑るように車は降谷の家の地下駐車場に入っていく。外の冷気なんかよりももっと低く感じる車内で、車を停めた降谷と視線が交わる。熱にうなされたような瞳。なんとなく息も荒い。 「おい、降谷……」  声をかけたのと同時に降谷の体がシートに沈んだ。無言のまま荒い息遣いだけが車内に響く。秀治はそっとドアを開けて運転席にいる降谷の額に手を当てた。熱い。高熱だった。手足をだらんと伸ばした降谷の体を抱えて車のドアをロックする。スーツのポケットをまさぐり鍵を取り出した。以前来たときに部屋番号をなんとなく目にしていたため、降谷を引きずって廊下を歩く。自分よりも体重の重い相手を担ぐことは秀治にとって重労働だった。歯を食いしばって玄関の前にやっとの思いで辿り着く。その間も降谷は意識を失っているのか微動だにしない。 「……何してんだ俺」  寝室のベッドに寝かせた降谷を見下ろしながらそんなことを呟く。脱がせたスーツはクローゼットの中にしまった。冷蔵庫の中を見るとほとんど何も入っていない。しかたなく、まとめ買いをしているらしい段ボールの中のミネラルウォーターを取ってサイドテーブルに置いておく。熱冷ましシートなどあるはずもなく、タオルに水を吸わせて即席の熱冷ましタオルを作った。それを額に置いてやると、少し楽になったのか降谷の呼吸が軽くなる。救急車を呼ぶほどの重症ではないが、一人にさせておくのはなぜか憚られて秀治はベッドの端に座った。

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