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第156話
翌朝、秀治はリビングのソファの上で目を覚ました。カーテンから差す光を眩しく感じながら窓を開ける。ひんやりとした冷気が部屋の中に入り込んでくる。
寝室のベッドには依然として降谷が眠り込んでいた。近くで顔を覗くと昨日よりはずいぶん表情が穏やかで、秀治はほっと肩を撫で下ろした。アッシュグレーの髪はワックスが取れているのか、前髪にかかっている。無防備な姿を見てこなかったため、それをなんとなく見つめてしまう。
なんで俺、この家を出ていかないんだろう。あんなに手酷い仕打ちをされたのに、この人から離れることはできない。あのとき命を救ってくれた恩人だからという理由であってほしい。ざわつく胸を両手で押さえてミネラルウォーターに口をつける。乾いた喉を潤していく。
「ん……」
静かな吐息だった。耳をそばだてていなければ気づかないような。ゆっくりと形のいい瞳が開いていく。はじめは瞼の半分ほどまで上がり、うっすらとこちらを眺めているようだった。それから、カッと目を見開いて秀治のほうを見上げる。青い瞳は何度か瞬きを繰り返すと、また閉じていった。静かに降谷の口が動く。
「何をしている」
「別に、誰かさんが熱でぶっ倒れて帰るに帰れなかっただけだ」
お礼の一言も言えないのかと睨む。ふっと堪えるような笑みが降谷から漏れた。額を指で触りながら、くっくっと喉の奥で笑い始める。気味が悪くなってニ、三歩後ろに下がった。
「馬鹿だな。おまえ」
突然馬鹿にされて黙っていられるほど秀治は大人しくない。ここぞとばかりに弱っている降谷の腹に馬乗りになる。頭に血が上って今にも殴りつけたくなった。
「おまえに馬鹿にされたくない。車での話も途中だ。おまえはいつも中途半端なんだよ」
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