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第158話
「愛の対極には何があると思う」
不意に語り始めた降谷を見る。その表情は落ち着いていて焦りの影もない。
「憎しみだ。俺はおまえを憎らしいと思っている」
なんの告白なんだろう。どこか遠い場所を眺めるような目で降谷が話し続ける。
「愛と憎しみは相反している」
わかるかと問われ頭を振る。降谷は両目を細めた。
「俺はおまえのことになると自分を制御できなくなる」
なにを言ってるんだ、こいつは。秀治はぽかんと口を開けてその次の言葉に目を疑った。
「秀治。俺はおまえに惚れている」
「なっ……」
まさかこんなところで告白されるなんて考えもしていなくて、秀治は後退りする。その姿を見てふっと軽く笑う降谷の顔は青白い。
「王子様にはずいぶんと寵愛されているらしいな」
唯斗のことを言っているのだろう。軽く頷く。
「おまえを最初に見つけたのは俺だ」
嘲笑ともとれる笑みで降谷が呟く。
「いつのまにか笑顔になって、幸せになっていた。俺の気づきもしないところで。それが憎い」
その瞳を見つめてしまえばきっと後悔する。そう思っても、体は無意識に降谷の目を覗き込んでいた。
「俺はおまえが憎くて愛おしい。話したかったのはそれだけだ」
体が割れる音が聞こえた。今まで見てきた降谷とは違う一面を見せられて体が緊張し始める。威圧感もない、馬鹿にするような笑みもない。ただ、すんなりと素直にこぼした言葉が信じられなくて頭を振る。
「熱海の夜はすまないことをしたと思っている。鈍いおまえに苛立ってあんなことをした」
初めて降谷の瞳が穏やかな色になるのを見た。
「おまえはもうあいつのものなのにな」
その声が微かに震えているように聞こえて、胸がざわざわと揺れる。そんな顔をするなよ。そんな悲しそうな目で俺を見るな。
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