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第159話
「看病助かった。今日も仕事だろう。早く帰って休め」
「……ああ」
秀治が言えたのはその一言だけだった。走り去るようにして降谷の部屋から飛び出す。乱雑に手渡された一万円札を握ってタクシーに乗り込んだ。寮に帰る途中もぼんやりと窓から流れる景色を見ながら、秀治の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
嫌われていると思っていた相手が、俺を好きだった。愛していると言ってきた。信じ難いが夢ではない。そう言われて何かが変わるわけでもないのに。降谷の体の傷を見てしまったあとでは、いてもたってもいられない。秀治は寮に戻って軽く着替えを済ませるとベッドに突っ伏した。次に会ったときどんな顔をすればいいのかわからない。
その日の昼過ぎに秀治は部屋を出た。まっすぐシャイニングムーンに向かう。すでに店を開けていたダグに声をかけると、驚いたように笑った。
「どうしたの? まだ仕事前だけど」
「あの……」
言い淀む俺にダグは、ん? と首を傾げた。
「降谷って何者なんですか?」
「レンとなんかあった?」
ぐっと体が縮こまる。何かを察したのかダグは大笑いをしだす。
「な、なんで笑うんですか」
「レンのこと俺に聞いてきたのシュウが初めてだから」
そう言って、立ち話もなんだからとカウンターに勧められる。ダグと隣になって座ると、どこから話そうかと眉頭を指でいじっていた。
「レンの前の職業って聞いてる?」
秀治は首を振る。ふぅっと大きなため息を一つついてからダグが話し出した。
「アメリカ陸軍兵士だったんだよ、レンは」
「陸軍?」
遠い異国の話のようだと秀治は思った。
「そう。ドラマなんかで見るアメリカの軍人」
秀治は戦争という言葉に馴染みがない。義務教育の間に社会の教科書で何度か見たことはあったが、それを近くに感じることはなかった。
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