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第161話
「降谷はいるんですか。安心できるやつが降谷の隣に?」
ダグは首を横に振った。
「おそらく退役してから一度もいないね。出会いはあるはずなのに、前向きになれてないんだよ、たぶん」
「……そうなんですか」
胸の中に大きな穴が空いたような心地がした。その穴を突風が通り抜ける。手足が冷たくなって、感覚がなくなっていく。もしかしたら昨夜の告白は降谷にとって大きな一歩だったんじゃないかと思うと、それをまっすぐ受け止められなかった自分に恥ずかしくなる。無理矢理犯されたとはいえ、一応謝りはした降谷のことを思い返せば、謝罪ができるだけまだましだ。いつもならきっとなかったことにされていた。
「シュウは迷ってるんだね」
唐突にダグに声をかけられてぼんやりとしていた意識が戻る。
「今の幸せを大事にするのも間違ってないと思うよ」
この人にはなんでもお見通しなんだな。軽く笑って言葉を振り絞ろうとする。しかし、うまく声が出ない。
「俺だけが幸せでいいんですかね」
しゃがれた声で縋るようにダグに問いかける。震える肩をダグはそっと支えてくれた。
「シュウが自分で掴んだ幸せだよ。全部、自分で決めていいんだよ」
唯斗さんのあの太陽のように眩しい笑顔が頭の中にチラつく。俺を光の中に導いてくれた人。俺が初めて愛した人。そして、俺のことを初めて好きだと言ってくれた人。
鼻を啜りながらダグの胸に寄りかかった。どうしようもないほど胸が苦しくて、痛くて、それを吐き出したくて声を出して泣いた。そんな俺をダグは何も言わずに抱きしめてくれる。その腕の中があたたかくて、さらに泣けてくる。
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