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第164話

 後髪を指で梳きながら唯斗が説明してくれるのを秀治は黙って聞いていた。この瞬間も頭の中には降谷の顔がちらついていた。疲れ切った瞳、熱にうなされた表情が瞼の裏に浮かび上がる。黙りこくった秀治を怪訝に思ったのか唯斗がスマホを離した。後ろから抱きしめられながら、秀治は唯斗の動きを見守る。 「どうしたの? なにかあった」  とびきり優しい声で聞かれると、つい言葉が漏れてしまう。後悔するとわかっているのに秀治の口は勝手に動き出した。 「あのさ、俺は唯斗さんに与えられてばっかりでいいのかなって。俺はなにかを与えられてるかな?」  ふふっと目尻を垂らして唯斗が笑う。 「もちろん。シュウくんからはいっぱい元気と癒しをもらってるよ」  肩に頭を埋めて唯斗がはにかむ。それを見ると胸があたたかくなる。愛されるということは、きっとこういうことをいうのだろうと思った。答えを聞いたのになぜか心はまだ暗いままだった。なんとなくその原因がなんなのかは予想がついているが、未だに信じられずにいた。俺降谷のことが心配なんだ。自分のことより気になってるんだ。 「シュウくん。俺だけ見ててよ」  ワントーン下がった声で唯斗が呟く。 「どこにも行かないで。俺だけのものでいて」  子供が親から離れて寂しがるような声で迫られると振り払うことができない。秀治を抱きしめる力が強まっていく。 「唯斗さん、苦しい……」 「ごめんね。でもシュウくんがどこか遠いところに行っちゃう気がして不安なんだ」  揺れ動く瞳と対面する。その目は行かないでと言っていた。

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