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第170話
──もうどこにも行かせないよ。
そう暗に言われているようで背筋が凍りつく。へなへなとその場に座り込み、ここにはいない男の顔を思い浮かべた。死の床から救ってくれた唯一の人。
「降谷……」
ぽつりとこぼれた言葉に自分で驚く。あんなに酷い仕打ちを受けたのに、助けを乞う自分が馬鹿馬鹿しく思えた。ふふっと泣きそうな声で笑う。そのままリビングのベッドに寝転び開いたカーテンの向こうに見える青い空を眺めた。まるで囚人のようだと思いながら瞳を閉じる。監禁されている間はすることがない。時間が過ぎるのがあまりにも遅くて、不安で胸がいっぱいになる。
どうしてこうなってしまったのだろうと何度も自問した。唯斗さんがここまで嫉妬深い人だなんて思いもよらなかった。いつでも優しくて、あたたかくて、陽だまりのような人だと思っていたのに。今頃、店はどうなっているだろうか。自分がいなくても厨房は回っているんだろうか。クインとアレンは心配してくれているだろうか。視界が滲み、頬をあたたかい涙が伝う。俺はあの場所でたしかに大切にされていたのだと身をもって知る。長い間探し続けてやっと見つけた唯一の場所。早くあの場所に戻りたい。いつものようにダグと厨房で働いて、クインのちょっかいを笑って流して、アレンの作ってくれる飯を夜に皆で食べて。それ以上の幸せなんていらなかったのに。俺が欲張りをしてしまったせいだ。恋愛なんてものにのめり込んで、自分が自分じゃなくなって。こうなったのも全部自分のせいなんだ。
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