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第172話
「行くぞ」
「なんで入ってこれたんだ」
強く手を引かれ廊下を歩きながら降谷に聞くと、面倒くさそうに眉を顰めた。
「おまえに言っても理解できない」
「!」
憎らしい口調は相変わらずのようだった。玄関でいそいそと靴を履いていると上からものすごい視線で射抜かれているのに気づき靴紐を結ぶ手が震えた。
「早く履け」
「わかってる」
時間はかかったがなんとか靴を履いて外に出る。久しぶりに感じる新鮮な空気に喉が咽せた。軽く咳をしていると、肘のあたりを掴まれてエレベーターに連れ込まれる。降下している間無言だった。ロビーについて正面玄関から出ようとしたとき、道の反対側から走ってくる男の姿が見えた。それだけで、心臓がばくばくと震えだす。降谷の背中に隠れるようにして目を瞑った。
「なに、してるの?」
心底驚いたような声で唯斗が聞いてくる。シュウくんと囁かれても返事ができない。喉がつかえたようにヒリヒリと痛む。そんな秀治の状態を知ってか知らずか降谷は堂々と唯斗の前に立ち塞がった。
「店に来ないと聞いて探しにきた。こいつには仕事がある」
「それが何? 辞めればいいよ。ね、シュウくん」
降谷の肩を掴む手に力が入る。恐怖で唯斗の顔もまともに見れない。唯斗が焦れたように降谷の背中に回り込もうとする。それを降谷が手で制した。
「こいつの人生はこいつのものだ。おまえに指図されるものじゃない。それから、ダグから店の出禁を言い渡されたから二度と来るな」
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