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第189話
ふっと自嘲的な笑みを浮かべた降谷はベンチの背もたれに深く沈み込んだ。
「翠は俺のことを嫌っている。それにしてもそんなことをおまえに言うなんてな」
秀治は続きの言葉を待った。何を言われるのか不安で仕方ない。手のひらに汗が出てきた。暑さのせいではない汗に気分が悪くなる。
「俺はそんなふうな男に見えるか、秀治」
不意にサングラスを外した降谷と目が合う。青い瞳はどことなく揺れていて、見ているほうが心配になってしまう。秀治はふるふると首を振った。
「翠の言ったことは信じない。俺は今までこのままの降谷しか見たことないから」
自分なりにいいことを言ったなと満足していると、降谷の眉がぴくりと反応した。そして機嫌が悪そうな目つきになる。何か失態をしてしまっただろうか。不安になって降谷を仰ぎ見るが目も合わせてくれない。すたすたと勝手に歩いて行ってしまう。秀治はそれを走って追いかけた。
「何だよ急にっ。俺、何か気に触ることでも言った?」
よほど怒っているのか返事もしてくれない。おろおろと狼狽えていると、退園ゲートの前に来てしまった。もう帰るというのだろうか。すでに園内はくまなく見たが、もっと降谷と話したかった秀治はしょんぼりと肩を落とす。後ろを振り返りもしない降谷の後をつけて車の前に立ち尽くす。
「乗れ」
「……」
不機嫌モードの降谷が運転する車に揺られながら、なんと声をかけていいか迷う。本当はお土産だって選びたかった。なんでこんなに怒っているのか理解できない。ついに秀治もつんとすまして無視をすることに決めた。
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