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第一章 第8話

 木野崎に道具を貰った次の日から俺は、西条さんにアタックすることにした。  昼休み、αクラスに出かけ、西条さんを探す。 「お、相浦」 「……葛飾、と京本」  俺の前に、目ざとく俺を見つけた葛飾が立ちふさがる。 「αクラスにΩ一人で来るなんて、狼の中に羊が放り込まれるようなもんだろ。俺らがΩクラスに遊びに行くのとはワケが違うじゃん。何しに来た」  確かにそうだ。  αはΩなんて取って食うのも簡単にできてしまう。  フラフラとαクラスに顔を出して犯されたとしても文句は言えないので、Ωは普通、αクラスには近づかない。  教室の外から声をかけただけだが、α達の視線が俺に集まっているのを感じる。 「……西条さんは?」 「西条?篠原に呼ばれて職員室じゃね。何かと雑用押し付けられてっし」  京本が答える。  篠原とは、αクラスの担任の男βだ。  西条さんは委員長だからか雑用が多いらしい。 「じゃ、いいや」 「何?西条になんの用があるわけ?」  帰ろうとした俺に葛飾が尋ねる。 「いや……大したことじゃないし」 「はぁ?お前、Ωクラスで一番の上物が誰か探しに来たつったら気になるだろ」 「だから別に……」  逃げようとした俺の腕をパシッと葛飾が掴む。 「っ痛……」  αは成長期前からガタイが良いし身長もでかい。力も強い。  葛飾にとっちゃ軽い力だったんだろうが、俺には痛い。 「っ放せ」  葛飾の腕を振りほどく。 「どうかしたのですか?」  鈴のような高い声が響いて、振り返ればそこには西条さんが居た。  職員室から帰ってきたようだった。  黒髪ロングに、巨乳。  俺よりは小さいが、165cmある俺とさほど目線が違わないくらい身長が高い。女子にしては大きい方だが、αの女ならこのくらいの身長はザラだ。 「貴方……見たところΩのようですが。Ωがαクラスに来るなんて……」 「あ、あの、西条さん」 「はい」  きっと葛飾と俺との間に入って仲裁しようと声をかけてくれたのだろう。 「良かったら今日、俺と一緒に帰らない?」 「は?」 「「「えええッ」」」」  ポカンとした西条さんの声に、αクラスのどよめきが被さった。 「てか、これから毎日。良かったらだけど。帰り方向一緒じゃん、俺ら」 「そ、それは……なぜですか?」  なぜですか!?  当然の疑問だ。  だが聞かれることは予測していなかった。  俺はアホだ。 「相浦、西条狙ってんの?」  そこに割り込んできたのは葛飾だ。 「うん。狙ってる」  そう答えた俺を見て、おおお~っとαの教室が歓声をあげる。 「……αに捕まるまで待ってるΩもいるけど、お前は食わせるふりして食うタイプか」  葛飾のよくわからない分析に京本が続ける。 「お前、このガッコん中でもメチャクチャ顔が良いっつって、お前のこと狙ってるαもβもΩもいっぱいいんの、知ってて西条か?」 「……それは知らなかった」 「マジか」  知らなかったが、京本の言うことも俺には納得できる。  なんせ俺はハイブリッドだから。  木野崎に、約束しちゃったから。西条さん落として、セックス。それでも俺が木野崎のこと好きだったら、付き合っても良いって。 「西条さん……どう?」 「えっ、あっ、まぁ……」  食われる側のΩに、「狙ってる」発言されたのだ。  面食らった様子の西条さんだが、見かけの性格通り、返事もしっかりしていた。 「お友達からなら……いいですよ」 「やった!!」 「でも、αクラスは危ないですから……私が迎えに行きますね」 「ありがと……じゃあ、放課後」 「はい」  喜ぶ俺を、食いたげな妖しい目つきで見つめてくる奴もいれば、純粋に面白がって野次を飛ばす奴もいる。αクラスの視線を一心に受け止めながら、俺はΩクラスに戻った。 「木野崎……俺、今日から西条さんと一緒に帰ることになったから。お前、一人で帰れ」  Ωクラスに戻って、隣の席の木野崎に告げる。 「はいよ」  木野崎は、何でもないことのように返事する。  少しは嫉妬とか、してくれないんだろうか。  西条さんにOKもらって、俺だって嬉しかった。  でもそれは、俺を受け入れる木野崎に対する喜びとは違うものだ。  木野崎、お前、寝取られる趣味は無いってはっきり俺に言ったよな。  だったら少しは、悔しそうな素振りぐらい見せてくれ。  西条さんに嫉妬して、俺のこと奪うような目で見てくれたっていいじゃん。なんでそんなに平気そうなツラしてやがんだ。  西条さんは、αだ。  俺のことを抱ける。  俺達がもしかして、Ωだの、αだの関係ないβの普通の男と女だったら。俺が木野崎に操立てて、チンコ使ってもケツの処女は木野崎の為だけにとっておくなんてこともしたかもしれない。  でもΩとαの恋愛に、それは通用しない。  西条さんがαで、俺は男でもΩだから。

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