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第一章 第9話
あの時木野崎は、俺に捨てられるかもしれない不安と、俺を捨てるかもしれない不安を口にした。
ということは、もし俺が西条さんと上手くやって木野崎と付き合えたとしても、木野崎が後から俺を振る可能性だってあるってことだ。
「割に合わねぇ……」
呟いてももう遅い。
最初はただの、仲間を見つけた安堵感から来るものだと思ってた。
でもその気持ちは木野崎を好きなのだと、木野崎自身にわからされた。
そして西条さんとの来たるべき日の為に、実は前だけじゃない、後ろも使ったオナニーは続けている。
最初は苦しいだけだった指も、三本は余裕で呑み込むようになって、木野崎からもらった道具で拡張しては、木野崎とヤる妄想で抜いている。
俺が西条さんを狙っているという噂は他のクラスにも瞬く間に広がって、俺を誘う奴も減ったから、今じゃ誰と寝ることもない。
ただ木野崎で抜くだけだ。
西条さんとは、あれから帰りを共にするようになった。
暇があれば一緒にジャンクフードを食べに寄ったり、女子が好きそうなカフェを探して連れて行ってみたりも、するような仲になった。
西条さんは、真面目なだけじゃなくてお喋りも上手かった。
西条さんと一緒だと、木野崎に撥ね退けられて傷ついた俺の心も、ちょびっとは癒されるような。
それに、うちの学校じゃ委員長は中学からの内申見て、賢い順に割り振られるらしい。
そんな学校で高一の春から委員長やってるぐらいだから、賢いんだ。
テスト勉強なんかも一緒にして、西条さんに教えてもらうようになった。
「俺みたいな馬鹿に教えんの、大変でしょ。ゴメンね」
謝る俺に、
「教えるのも勉強になるから。相浦君のおかげで、私も勉強になること、あるの」
そう答える西条さんは、誰が見たってイイ女だ。
毎日一緒に下校……といっても、週2で入ってる西条さんの塾の日は、木野崎と一緒に帰る。
どっちといても俺は楽しい。
でも、前と変わらず俺のことを、熱い視線で見てくる木野崎と一緒に帰ると、楽しいだけじゃない感情も湧いてくる。
その感情に俺は支配されたくて、西条さんとの関係を進めなきゃって、余計に焦る。
いつもの5人でいる時は、アホみたいな下ネタばっかり話している俺も、西条さんと一緒の時は自制するようになった。
でも、もうそろそろ進まなきゃならない。
「西条さん、俺と付き合わない?」
図書室で勉強中、ふと口をついて出たセリフに、西条さんが少し考えるようなそぶりを見せた。
西条さんが今まで恋愛経験が無かったわけじゃないってのは、今までの会話で知った。
それでもこの子は、ちゃんとした子だ。
まだ高一だ。といってももう高一。俺のことを好きかそうでもないか、好きだとしても付き合える相手か、付き合って、高校生にもなれば何をするのか。回転の速い頭で考えたに違いない。
「はい、付き合いましょう」
あ、それ、木野崎に俺が言って欲しかったヤツだ。
そんなことは言えるはずもなく。
「やった!マジありがと……っ!これからよろしくね」
「はい」
落ち着きのない俺を見て西条さんはふふふと笑う。
下校という名のデートを何度も重ねた俺と西条さんは、付き合うことになった。
西条さんに、俺が抱かれて、西条さんを、俺が抱いたらこの関係は終わり。
罪悪感で、死ねる。
今までいろんな相手と遊び惚けてきたくせに、今回ばかりは後ろめたい気持ちで押し潰されそうになる。
それでも目的のために、息を吐くように西条さんのことを好きな奴、の演技ができてしまう自分に呆れてため息も出ない。
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