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第二章 第19話 ※R18

 夏休みになった。毎日登校ではないが、Ωは夏休み前と大して変わらず、午前だけ、補習が入っている。ヒートが夏休み前に被っているΩは、俺達よりももっと登校しないといけない。登校時間がいつもより遅いので、楽ではあるが、Ωクラスは長期休暇でもいつもと変わらない毎日を過ごしているというわけだ。 「あ~ッ!補習のせいでαの女、逃した!」  後ろの席で悲鳴を上げる赤城に俺と木野崎はふと視線を合わせる。 「赤城、珍しいな」 「珍しくねえよ!高校入ってからじゃ初めてだけど、毎回こうなんの!長期休みも一緒にいられないΩとは付き合えねえんだって!」  どこかで聞いたことがあるセリフだ。……西条さんを振った時の、俺である。 「つったってしゃーねーのに。俺たちΩはヒートに備えて先行授業だし」 「その割に休暇後の補習は無くならないけどな」 「そんなに気にするほどの女だったのか?」  赤城、俺、木野崎の順にパラパラと喋る。 「木野崎……お前、αの女には興味津々だな?」  俺は女のことを気にする木野崎を詰める。 「……赤城が気にしてっから聞いただけだよ」  ギクッと音が聞こえそうなほどマズったという顔で答える木野崎に俺は笑いかける。 「嘘つけよ。オメーが気になってんだろ。木野崎は、αの女が性癖なんだもんな?」 「え?そーなの?初耳。俺とシュミ被るわ。てか琉人、なんか怒ってない?」  聞き方が意地悪……。と、ぴえんと鳴き真似する赤城を鼻で笑いながら木野崎とゆっくり目を合わせる。木野崎の顔が引きつるが、目を合わせたままニコォと微笑んでやる。  怒ってなどいない。  ただ、普段は雑でアホな木野崎が珍しく他の奴を気にしたと思ったら、αの女だったのがちょっと鼻についただけだ。  前に木野崎の部屋を訪ねたとき、女αのエロ本があったのを思い出したのだ。  午前授業の補習が終われば、夏休みは解散。 「この後どうする?涼華とうららも誘って遊び行くか」  何も考えていなさそうな様子で提案してくる赤城。 「俺と木野崎は、用があるから帰る」 「……そう?んじゃあ、俺もこのまま帰るか」  大人しく変える用意を始めた赤城を背に、俺はよそよそしい態度をとる木野崎の肩に腕を回した。  帰り道、俺の半歩後ろを歩く木野崎はちらちらと俺を気にしている。 「……なぁ。怒ってんの?」 「怒ってねーよ」 「……悪かったよ」 「何に謝ってんだよ」 「……赤城の女αのこと」 「やっぱ気になったんだ?」 「……」 「お前が、ズリネタ目の前にして犯すような変態なのは、俺も知ってるよ」 「お前っここ外ッ」  突然木野崎の変態行為を話しだした俺の口を、木野崎が慌てて塞ぐ。 「でもなぁ、今は俺と付き合ってんだろ。女αがどんだけエロくても、俺と付き合ってんだろ。……だよな?俺だけが付き合ってると思ってんじゃねえよな!?」 「付き合ってる。俺が悪かった。……お前いんのに、他の奴気にするヨユーなんて、ないって。ほんとだって」 「女αのエロ本、捨てるか?」 「それとこれとは話が別……痛い痛い痛い」  ほざく木野崎の顎を掴んで引っ張る。コキッと鳴ってはいけない音が鳴る。  別に嫉妬なんか、していない。  ただ、αに靡くΩ達と木野崎は、違うと思ってたのに。  自分勝手な失望だ。  俺にカラーを嵌めて首輪を付けたいと言っていた木野崎に、俺は安心しきっていた。こいつの独占欲も情欲も、俺のもんだと思って。  俺は元々、αに靡かないΩが木野崎だったから好きになった。  でも木野崎にしたら、女αか男Ωなら性癖にハマるから、誰でも良いわけで。 「なぁ、なんで俺のこと好きになった?」  今時女でもしない質問だ。私のどこが好き?なんつって。  大体、俺のことも西条さんのことも散々振り回しておいて、何でコイツが俺を好きなのかはまだ聞いたことがない。  俺も言っていないからお互い様だが、俺の場合はハッキリと木野崎でないと駄目な事情があるのに、木野崎はそうじゃないという時点でどっか力関係に差が出ているような気がする。 「あーもーッそーゆーとこだよッ」  木野崎が頭を抱えて蹲る。 「俺のこと好きなのが全部!出てんだよ!んで俺は、お前のそういうとこが好きなの!」  さっきまで俺の発言に慌てていたくせに、今度はガツガツと寄ってくる。 「行っとくけどお前、そんじょそこらの女・男どもじゃ敵わねぇくらいカッケーんだからな。そんな奴が俺のこと好きだっつって誘惑してみろ。エロすぎて落ちねえわけねーんだッ」 「なッ……み、見た目か?それともお前のこと好きだっつー奴なら誰でも良いのか?」 「んなわけねーだろ!普段仲の良いお前が!アホみたいな話ばっかしてる誰にでも股開くお前が!俺のこと落とそうとしてアクションかましてくんのが刺さるんだろうが!」  木野崎がツカツカと目と鼻の先まで寄ってきては人差し指を俺の胸に突きつける。  俺は西条さんで処女を失ったばかりなうえにセカンドヴァージンは木野崎なので誰にでも股開いているわけではないが、俺が股開いた上に寝た子たちが乗っかってヤッてるという想定なら木野崎の言うこともわからんではない。 「お前は俺のこと落とそうとしてる自覚なんてねぇだろうけどな、フツーに見たらそうだから!んでお前に落ちない男なんか、ガッチガチの理性持ってるやつでなきゃなかなかいねぇよ!」 「……ふ、フーン……」 「オイなんだよ、静まんなッお前が言い始めたことだろッ俺一人残して勝手に納得してんじゃねぇッ」 「……じゃあ、俺のこと好きだってとこ、見せて」  テンション上げてく木野崎に俺はちょっと上目遣いで聞いてみる。俺の顔って、ハイブリッドだから。顔が良いのは自分でも知ってる。じゃあこの顔使って媚びたら、木野崎には効くんだろうか。 「……はぁ!?」  俺は木野崎の手を取って歩き出した。  俺は木野崎の家に上がり込んだ。  木野崎の部屋に着くとバサッと上を脱ぎ捨てる。 「……ヤんのか?」 「ヤんねぇ」 「じゃ、なんで」  俺の上半身に触れようとする手をパシッと薙ぎ払う。 「俺のこと好きなとこ見せろっつったろ。俺のこと大事なら、ガマン、できるよな?」 「……あぁ!?」  ストリップなんて安い真似、するつもりはない。  でも木野崎が俺のことエロい目で見てる以外に、恋人相手に想うみたいに、俺のこと大事にしてるんなら、俺が何をしても我慢できると思う。  今日は抱く気も、抱かれる気もない。 「……試すような真似、すんなッ」  木野崎が怒る。  でも聞いてあげない。  木野崎の顎を取って、口付ける。  薄く開いた口の中に舌で侵入し、逃げる舌を吸い上げる。ヌルヌルと舌を舐め上げ、先端をぐりぐりと刺激する。 「っは……っ」  木野崎の息が上がる。  逃げようとする身体を捕まえて、腕の中に収めた。両手を繋いでいるから、木野崎は逃げられない。  上半身の素肌を、擦りつけるように密着させてやる。  木野崎の目が、情欲に濡れる。ジッ……と舐めるように瞳が下を向く。  引っ付いた上半身を離して、ちらりと乳首が半分見えるようにしてやると、木野崎の目線がそこに釘付けになる 「触りてぇ?」 「……触りてぇっ」 「ダメ」  ごくりと木野崎の喉が動く。  手を繋いだまま、木野崎の足の間に片足を入れ、太ももで股間を揺する。  どんどん、木野崎のモノが硬くなるまで、今度は自分の股間を引っ付けて擦り合わせる。  全身擦れて、唇は至近距離のままで、空気に酔った木野崎の、ズボンと、ベルト越しに、股間が膨れてきつくなっていくのがわかる。 「……はっ……くっ……相浦」 「光輝」  俺を呼ぶ木野崎の、名前を呼んでやる。 「コーキ」  甘えるように再度名前を呼び、ちゅっと音の鳴るようにまた口付けて、自分の唇をぺろりと舌で舐めあげた。 「……リュートッ……」  余裕なさそうに、木野崎が俺を呼ぶ。  と、繋いでいた両手をぎゅっと握り返された。  そのまま腕に力を入れて、トトトッとベッドに着くまで押し返された。ベッドに押し倒される。 「この、淫獣が……っ」 「待てっ木野崎!光輝!」  木野崎は運動神経が良い。それだけでなく、力も強い。力業に入られると、俺には分が悪い。  慌てた俺は咄嗟に両手を引きはがされないように、ぎゅっと握る。 「セックスは、しねぇっ……俺んこと大事なら、エロい目で見る以外に俺のこと、大事にしろっ。俺のこと、好きなんだって態度で示せっ」 「っはーっ……クソッ!待ってろ!トイレで抜いてくる!」  ばりっと両手を引き離した木野崎が、ぎゅーっ……と俺を抱きしめて、部屋を出て行った。ダダダダッと階段を駆け下りる音がする。 「ふーっ……ガマンした……」  俺は残された部屋で、ベッドに横たわり独りごちた。  キスだけでなく、煽って、煽られたのは俺も同じだ。体の中心にゆるい熱を灯したまま、冷めるのをじっと待つ。  暫くすると、ゆっくりと木野崎が部屋に戻ってきた。 「お前、俺がお前以外で勃たねって、知ってんだよな?」 「知ってるけど」 「じゃあもう、こんな真似すんな。俺はお前以外とヤれねぇし、お前のこと、ヤる以外にもちゃんと好きだから」 「うん……ちゃんとガマン、してくれた」 「当たりめーだろッ」  また、ぎゅっと抱きしめられる。 「じゃあエロ本、捨てる?」 「それとこれとはまた話がちが」  コキッと音が鳴るまで木野崎の顎を引き倒した。  悶絶する木野崎をドッと蹴り倒し、シャツを回収する。  プチンプチンと下から上までボタンをかけていく。 「じゃあなエロ助」  俺は木野崎を残して部屋を出た。 「エロいのはお前だろッ」  木野崎の叫び声が、閉じた扉の向こう側から聞こえた。

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