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第二章 第21話

「じゃあ二人は今日、職員室に行って生徒会のことを聞いてきて。新学期始まるまでに生徒会揃わないと意味ないから」  羽田が二人に指示を飛ばす。 「相浦君、協力してくれてありがとうね」  羽田が握手を求めて手を伸ばしてきたので、「ああ、まぁ」などと曖昧な返事をしながら握り返す。  と、ビビビッと電撃が走ったように全身が震えた。 「っは……」 「うおっ」  息を詰める俺と、思わず声を漏らす羽田。  思わずパッと手を離した。 「……運命の番」  羽田の呟きに、横の木野崎がピクリと反応する。 「とまではいかないけど、相性良いみたいだね、俺達」  俺は初めての体験に身の毛が総立った。  触れただけでわかる。  西条さんとヒート中にセックスしたのとはまた違う、相手を求めたくなるような感覚。    運命の番とは、αとΩの間にのみ存在する、遺伝的に相性のいい相手のことだ。  相性の良さを数値で表すなら、90%以上が運命の番だとしよう。運命の番ならば、αのαフェロモンでΩがヒートを誘発することもあるらしい。  例えば一卵性の双子のバース性がαとΩに分かれていたら、そんな確率は殆ど無いらしいが、双子の相性は運命の番と同じくらい良いらしい。兄弟や親子の遺伝なんかでは双子のようにはいかないが、そういう言い伝えもある。  俺と羽田の相性は、運命の番ほどではない。ヒートを誘発されたりはしない。けれど明らかに相性がいいとわかる、70~80%くらいの相性の良さだ。  大抵の相手とは相性が良くても50~60%止まりになるのだろう。それでなくとも俺たちは幼い頃からα、β、Ωのクラスに分かれて生きてきた。70~80%程度の相性のいい相手と出会う機会もなかった。こんな感覚は初めてだった。  人口の少ないαとΩの、運命の番と出会う確率はとても低いらしい。しかし相性のいい相手なら、一定数は居る。  それが、俺の場合羽田だということだ。  羽田の言葉を聞いたクラスメイト達が、色めき立つ。  純粋な、羨望のまなざしに囲まれるのがわかる。相性のいいαと出会えたことへの羨ましさ。ちょっとの妬ましさ。そんなものが入り混じった視線を教室全体から感じる。  葛飾と京本は、驚いたようだが、興味深くこちらを伺っているだけだった。 「相浦君、優しい相手が好きなんじゃない?俺、よく優しいって言われるんだ」  待て。ちょっと黙れ。  電撃にショックを受けた身体では、そんな言葉も声にならない。  相性がなんだ。  俺は、俺には木野崎が良い。  αに靡くΩ達に不満を持っていたのに、結局俺も同じなのか?急に不安が襲ってくる。 「俺は、相浦君みたいな子をずっと待ってたよ。かっこよくて、人望があって、Ω達の中でもひと際上玉のΩ。……俺の、Ω」 「……、……誰が、あんたのΩだって?」  ようやく絞り出した言葉も、この程度だった。 「……俺は、あんたのもんになる予定も、願望もねぇよ」 「強気だね。そういうとこも、良いと思うよ。普通のΩとは違う。……また会おう、相浦君」 「もう会わねぇ」 「またね」  葛飾たちと一緒に、羽田は去って行った。  木野崎が、俺の手を取り両手でぎゅっと握る。 「相浦。お前がαに欲しがられんのは、お前が特別なΩで、目立つからだ。目立つモンは、影からお前を見てるような奴にも、欲しいと思われてる。あいつがお前のことを自分のΩだと言っても、お前のことを“俺のモン”だと思ってるαなんて、他にもいっぱいいる。羽田だけじゃねえ。そんな中でも、たまたまあいつと相性が良かっただけだ」 「……わかってる。俺が特別なのは、生まれつきだ」 「自信だけはものすげえな、お前」  しかし俺は、上玉と呼ばれるこの顔や、Ωの色んな子たちと繋がっている今の立場が無ければ特別ではない。  抑制剤が効きにくくてαを誘惑しやすい体質のΩや、その逆で抑制剤の効きがよすぎてαやβに認められているΩなんか、話では聞くけど、俺はなったことがないし、大人になるまでヒートが来ない特別体質でもなければ、αを頑なに拒むような、一見変わったΩでもない。  羽田の言う普通とは違うΩ、には俺は当てはまらない。  それでも俺は、はたから見たら特別なΩなのだろう。  木野崎と付き合っているが、木野崎以外にも俺のことをグチャグチャにしてしまいたいと思っているΩやβだって、居ないとは限らない。というか確実に居る。それはもう子供ではないから、わかる。相手がαなら、目立つ俺は尚更だ。 「特別なモンは、誰だって欲しい。羽田のお前に向ける気持ちも、それと一緒だ。あの人はお前のことを、何も知らない。中身じゃなくて、見た目だけで判断して自分のモンにしようとしてるだけだ」 そう言った木野崎に、赤城が割って入ってきた。 「俺は、運命の番とか、憧れるけどなぁ。相性良いなら、番候補ってことだろ。羽田サンと付き合えばいいんじゃねえの?俺はまだ相性のいいαに出会ったことないけど。居るならイクね」  赤城の頭を木野崎がはたき落とす。 「痛っ……なんでぇ!?」 「お前は余計な事、言わんでいい」 「なんで!?余計だった!?」  騒ぐ赤城に俺は聞く。 「お前ぐらいαの女と遊んでても、相性のいい相手出てこねーの?」 「うん。フツーに居ないな」 「相浦。気になんの?」  木野崎が目を細めて俺に質問する。  女αの件で木野崎を詰めた俺が話せることではなかった。 「……か、勘違いしないでよねっ」  俺はごまかした。 「急なツンデレだな」  冷静にツッコんでくるが、いや、本当に勘違いしないでほしい。  運命の番どころか、ただの相性のいい相手である。  羽田より木野崎の方がずっと大切だとわかっていて欲しかった。

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