23 / 60
第二章 第23話
「ん」
木野崎が俺に、紙袋を差し出した。
「ま、また?」
「光輝、またエログッズ琉人にあげんの?」
困惑する俺と興味津々の赤城に、「ちげーよ」と木野崎が怒り、俺に紙袋を押し付けてくる。
「中身何?コレ」
紙袋の口が丸形のシールで封してあって、中身が見えないようになっている。
「……カラー」
「え?」
「は?」
「おっ?」
「え……っ!」
俺、涼華、赤城、うららがバラバラに反応する。
「うららが広告やってるブランドの、カラー。昨日買ったから」
「うららが広告のカラー、見に行ったんだ」
「それぐらい、行くだろ。ダチだし」
木野崎の言葉にうららが「えーっ、嬉しい」と笑う。
「で、それをなぜ琉人に?」
核心を突くような質問を飛ばすのは赤城だ。
普段アホのくせに聞きにくいことをズバッと聞く。
「羽田に粉かけられてんだろ、お前。知らんうちに首噛まれでもしたら寝覚めわりィだろが」
「アンタ、案外ダチ想いじゃん」
涼華が木野崎に、にっと笑みを向ける。
友達だから、あげる。そういうと普通のことのようだが、カラーを人にあげるなんて、普通は恋人か番相手くらいしか無い。木野崎は何を考えているのかわからないが、「まーな」と適当な相槌を打った。
紙袋から中身を出してみると、シンプルなデザインの、綺麗な色のカラーが入っている。
うららがモデルで身に着けていたような、レース柄が装飾されていたり、チャームが付いているようなものではない。
「今付けたい」
「いいけど、鍵俺んちに忘れてきたから、今付けたらもう外せねえぞ。」
「いいよそれで」
パカッと割るようにカラーを開き、首に掛けたらガチャリと鍵が閉まる音がするまで閉める。
硬くて、重くて、冷たい。首からは数センチ余裕をもって円を描くカラーに、首全体が覆われる。
木野崎以外は外せないこのカラー。
俺が木野崎のモンだっていう印だ。
興味なさげにあくびしてたのに。本当は気になって、心配して俺に選んでくれたのか。そう思うと首の重みに愛しさが増す。
「お前は顔が良い分、シンプルなのが一番似合うな。顔ちっちぇ。カラーの上に乗っかってるみてぇ」
と俺を見た木野崎が笑いながら感想を述べる。
「似合ってるよ!こっち向いて!」
うららがスマホのカメラを構えながら俺に言う。カシャカシャと写真を撮る音がする。
俺は木野崎の首に腕を回してピースサインを作る。赤城と涼華も俺に寄り集まり、うららがカメラを内向きに反転させて全員で写真に写った。
「うららがこんなテンション上がってんのあんまねーぞ」
「……えへへ、つい……」
涼華がうららを親指で指すと、うららは照れたようにスマホをぎゅっと抱きしめた。
「もしかして俺、警戒されてる?」
訪ねてきた羽田が俺のカラーを見て一言、発した。
「……そんなことないよ」
「でも、カラー……」
「……友達がこのカラーのブランドのモデルやってるから。それで付けてる」
木野崎から貰ったことは、言わない。
もうここまで時間が経つと、西条さんを気遣って俺たちの関係を秘密にしているわけではない。
αに狙われているΩが、Ωと付き合っていると知られるのは、危険だ。本能でなんとなく、そう思う。狩られる側の本能も、馬鹿にできない。
「なんだ。友達の為か。いい子だね」
羽田が俺の頭を撫ぜる。
じわじわと体温が伝わって、トロンと気持ちよくなる。
「相浦」
木野崎に腕を掴まれて、ハッとして羽田の手をどかした。
羽田は満足そうにしている。撫でるだけで相性の良さを確認できるのだ。αとしてそれは喜ばしいことなのだろう。
ともだちにシェアしよう!

