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第二章 第23話

「ん」  木野崎が俺に、紙袋を差し出した。 「ま、また?」 「光輝、またエログッズ琉人にあげんの?」  困惑する俺と興味津々の赤城に、「ちげーよ」と木野崎が怒り、俺に紙袋を押し付けてくる。 「中身何?コレ」  紙袋の口が丸形のシールで封してあって、中身が見えないようになっている。 「……カラー」 「え?」 「は?」 「おっ?」 「え……っ!」  俺、涼華、赤城、うららがバラバラに反応する。 「うららが広告やってるブランドの、カラー。昨日買ったから」 「うららが広告のカラー、見に行ったんだ」 「それぐらい、行くだろ。ダチだし」  木野崎の言葉にうららが「えーっ、嬉しい」と笑う。 「で、それをなぜ琉人に?」  核心を突くような質問を飛ばすのは赤城だ。  普段アホのくせに聞きにくいことをズバッと聞く。 「羽田に粉かけられてんだろ、お前。知らんうちに首噛まれでもしたら寝覚めわりィだろが」 「アンタ、案外ダチ想いじゃん」  涼華が木野崎に、にっと笑みを向ける。  友達だから、あげる。そういうと普通のことのようだが、カラーを人にあげるなんて、普通は恋人か番相手くらいしか無い。木野崎は何を考えているのかわからないが、「まーな」と適当な相槌を打った。  紙袋から中身を出してみると、シンプルなデザインの、綺麗な色のカラーが入っている。  うららがモデルで身に着けていたような、レース柄が装飾されていたり、チャームが付いているようなものではない。 「今付けたい」 「いいけど、鍵俺んちに忘れてきたから、今付けたらもう外せねえぞ。」 「いいよそれで」  パカッと割るようにカラーを開き、首に掛けたらガチャリと鍵が閉まる音がするまで閉める。  硬くて、重くて、冷たい。首からは数センチ余裕をもって円を描くカラーに、首全体が覆われる。  木野崎以外は外せないこのカラー。  俺が木野崎のモンだっていう印だ。  興味なさげにあくびしてたのに。本当は気になって、心配して俺に選んでくれたのか。そう思うと首の重みに愛しさが増す。 「お前は顔が良い分、シンプルなのが一番似合うな。顔ちっちぇ。カラーの上に乗っかってるみてぇ」  と俺を見た木野崎が笑いながら感想を述べる。 「似合ってるよ!こっち向いて!」  うららがスマホのカメラを構えながら俺に言う。カシャカシャと写真を撮る音がする。  俺は木野崎の首に腕を回してピースサインを作る。赤城と涼華も俺に寄り集まり、うららがカメラを内向きに反転させて全員で写真に写った。 「うららがこんなテンション上がってんのあんまねーぞ」 「……えへへ、つい……」  涼華がうららを親指で指すと、うららは照れたようにスマホをぎゅっと抱きしめた。 「もしかして俺、警戒されてる?」  訪ねてきた羽田が俺のカラーを見て一言、発した。 「……そんなことないよ」 「でも、カラー……」 「……友達がこのカラーのブランドのモデルやってるから。それで付けてる」  木野崎から貰ったことは、言わない。  もうここまで時間が経つと、西条さんを気遣って俺たちの関係を秘密にしているわけではない。  αに狙われているΩが、Ωと付き合っていると知られるのは、危険だ。本能でなんとなく、そう思う。狩られる側の本能も、馬鹿にできない。 「なんだ。友達の為か。いい子だね」  羽田が俺の頭を撫ぜる。  じわじわと体温が伝わって、トロンと気持ちよくなる。 「相浦」  木野崎に腕を掴まれて、ハッとして羽田の手をどかした。  羽田は満足そうにしている。撫でるだけで相性の良さを確認できるのだ。αとしてそれは喜ばしいことなのだろう。

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