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第二章 第24話

 移動教室の移動中、階段の陰で木野崎に引っ張られる。  二人して隠れた壁の近くで、木野崎がちゅ、とおでこにキスをした。  急になんだ、という間もない内に、口付けて、舌を絡め取られる。舐めあって、たった数秒。  頬と、鼻先、顎、首すじへ、ちゅっ、ちゅっ、と音を立てながら木野崎はキスを落としていく。プチ、と上のボタンを外されて、鎖骨らへんで、じゅっと肌を吸われた。 「羽田に触られた分、これでチャラ」  言う木野崎に、カァーッと顔が熱くなる。  木野崎、お前こんなことするキャラかよ。  赤城の「あれ!?琉人と光輝が居ない!!」と騒ぐ声が聞こえる。涼華が「そのうち来るっしょ」と適当な返事をしている。 「行くか」 「……ん」  木野崎に手を引かれて赤城と涼華とうららに合流する。  3人の目に触れる前に、手を放す。  俺が羽田に俺達の関係を黙ったように、木野崎も俺が取られると、本能で危険信号を鳴らしているのだろうか。  Ωだからって必ずαと一緒になるわけじゃない。俺は、ならない。木野崎がいるから。 でも、普通のαとΩはお互い惹かれあうもんなんだって、そういう普通の枠組みからはみ出ている自分に、怖さを感じる。普通じゃない自分。これは木野崎と一緒じゃないと、乗り越えられない。木野崎はどうかわからないけど、少なくとも俺はそうだ。  羽田は、マメな男だった。訪ねてきては、優しい態度で俺の様子を見て帰っていく。  αとしては、彼に憧れるΩが沢山いるのであろうことは簡単に想像がついた。そのうえ生徒会副会長だ。会長と副会長以外役職の無いこの学校の生徒会でただ二人、役職を手にしている有能な生徒の片割れだ。全校集会でもあれば全生徒の前に立っているのが見えるし、目立つ。 「羽田サンとは結局、どうなってんの?」  赤城があっけらかんとした態度で俺に聞く。 「別にどうもなってねえよ」 「えーっ!もったいねぇ!羽田サン、あんな優しくて琉人のこと気にして、通い詰めてくれてんのに」  勿体ない。そう思うのが、Ωとしての普通の感性なんだろうか。 「首輪付きのΩに近寄ってくる方が非常識だろうが」  木野崎が不機嫌そうに言う。 「首輪て。まあそうだけどさ。お前らのはそういうんじゃないじゃん。……でもまあ、琉人だしなぁ~。うららと同じレベルの琉人が簡単にαに落ちてちゃ、他の奴らにも一斉に狙われそうだもんな」  気を付けろよ、と赤城が俺の背中をポンと叩いた。  もうすぐヒートがやってくる時期になっていた。  でも身体のゾクゾクするような、ヒートの予感にはまだ遠い。  ヒート前で心が弱くなっていたのか、二人きりの時間。木野崎の部屋で、溢してはいけないような心の内側を話してしまった。 「木野崎……俺、おかしいのかな。Ωなのにαを欲しいと思わないなんて。羽田さんがあんなに俺のこと見てくれてんのになんとも思わねーの。どっか欠陥があるみたいで、怖えーよ」 「そんじゃ、おかしいのは俺も、同じだろうが」 「お前は女αも好きじゃん。……俺、木野崎だけだよ」 「……本当に羽田のこと、なんとも思ってないか?」 「触られると、気持ちいいよ。相性良いんだって、わかる。そんで流されたいと……思うこともある」 「テメー」  グッと顎を掴まれる。木野崎の指の平が俺のほっぺたをゆるく潰す。 「それ以上は、浮気だぞ」 「……ふぁい」 「お前が流されないんならそのままにしとこうと思ってた。でもな……俺は、こんなもん買ってまでお前のこと縛ろうとしてるぐらいには、必死なんだよ」  木野崎が俺のカラーを指で引っ張る。木野崎が俺にくれてから、ずっと俺のうなじを守っている硬くて、重くて、冷たい首輪。俺のことを繋ぎとめる、木野崎にしか外せないモノ。 「お前に言ってなかった、俺が一番嫌なことがある」  顎を掴んでいた手がそのまま、俺の頬を撫でる。 「俺のお袋、中学の時に男作って出て行ったっつったろ。運命の番が、現れたんだ。お袋Ωだったから。βの父親はαの運命の番に、母ちゃん奪われた。出会う確率は低いらしいから、βと結婚して俺が生まれて、中学になるまで出会わなかったのも頷ける。でもいい歳して、αの野郎と不倫して、見事に家族捨てて出て行ったよ。普通のαじゃねぇ……相性のいい、運命って呼ばれるほどの相性の相手だったから、そうなった。運命の番と出会うのは、Ωにとってもαにとっても一番幸せなことだ。今は二人仲良く、もしかしたらガキでもこさえて幸せに暮らしてるんだろうよ。……でも俺は、そうはならねぇ。お前のこと掴んで離さねぇ。羽田にお前奪われんのなんか、絶対あり得ねーんだよ」 「……木野崎」 「俺は、お前を手放さねぇ。お前が他の、αが良いって言ってもだ。お前は俺のモンだ。運命の番と一緒になるのが一番幸せなことだとしても、お前のこと放してやれねー。西条さんのこと振ってでも、ヒート中にαとヤった後でも、俺と付き合いたいっつったよな。一回俺のモンになるつったの自分だぞ。αに気持ちが傾かねー自分のことが、怖いか?」 「うん……ちょっと、怖いし、俺はおかしいと思う」 「駄目だ。流されんな。お前、自分で羽田のこと突っぱねろ。お前が自分のこと怖くて変だって感じるなら、そんなこと考えられなくなるぐらい俺がお前のこと、愛してやる。不安だったら、全部俺がどうにかしてやる」  木野崎が俺の服のボタンに手をかける。 「……すんの?」 「ヤる」 「俺、もうすぐヒートだよ。お前もだろ。一緒にヒートになってから、してもいいよ」 「今すぐヤる。ヒートになったら、なったで考えりゃいいだろ」 「うん……シて。木野崎……」

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