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第三章 第30話
「ん」
紙袋を木野崎に向かって突き出した。
「え!?今度は琉人から!?」
赤城の戸惑いのような野次が飛ぶ。
「なに?コレ」
木野崎は一応、聞いてくる。
「カラー」
「カラー!?」
またしても反応するのは木野崎ではなく赤城である。
「なんで琉人はそんなもん光輝にあげんの!?」
赤城、こいつはいつも痛いところを突いてくる。
俺だけが木野崎に縛られてるんじゃ物足りなくて、俺も木野崎に首輪を付けることにした。
互いが互いを縛れるように。他の奴らが木野崎に近付かないように。
それが俺の心の内だが、そうとは言えるわけもなく。
「俺のカラー選んでくれたお礼だよ」
涼華にした説明と同じことを言う。
「見たい。今付けていいか?」
聞く木野崎に、俺はチェーンに通してネックレスにした鍵を見せた。
「いいけど、鍵は俺が持ってるから、付けたら外せねーぞ」
「良い」
木野崎は紙袋からカラーを取り出し、まじまじと見つめる。
「俺のイメージって、こんな感じ?」
「似合ってんじゃん」
涼華が答える。
ラインが入った円のデザイン。運動神経のいい、木野崎に合ったスポーティなデザインだ。
カラーを嵌めた木野崎が、首とカラーの間に指を通しながら「思ったより重いな」と感想を口にする。
「えーっ、てかさーっ。そしたらこん中でカラー付けてないの、俺だけじゃんっ」
赤城の言う通り。
普段からカラーを付けることにした涼華に合わせて、うららはモデルの時にサンプルで貰ったのだというレース柄のカラーを付けてきていた。
俺は木野崎以外カラーが外せないので付けっぱなし。
木野崎も、俺が贈ったカラーを付ければ、この5人の中じゃうなじを晒して生活しているのは赤城のみとなる。
「寂しい……俺も今日女の子とのデートでカラー買いに行くわ」
「別に無理して、一緒にせんでも」
止める俺に、「一緒が良いの!」と叫ぶ赤城。
「てか、琉人と光輝はなんでお互いの鍵持ってんの?普通鍵は自分で持っとくんじゃないの?」
赤城が痛い質問をする。
俺と木野崎の間じゃ、お互いでしか鍵を開けられないカラーが首輪の役割を果たしているが、普通は、家の引き出しにでも鍵を大事に持っておくもんである。
「……なんかあった時に自分の首に鍵ぶら下がってちゃカラー外されて首噛まれて終いだろうが」
木野崎がもっともらしいことを言う。
「あー……まぁそうか」
それでスッと騙されてくれるあたりが赤城である。
「じゃあ俺もカラー買ったら琉人か光輝に鍵預けるわ」
「オメーは自分で持っとけ」
「なんで!?」
木野崎がぴしゃりと言い放った。
「まぁ、カラーは付けとくに越したことねーよな」
呟いた木野崎に、うららが反応した。
「……確かに。私みたいなのは、特に何が起こるかわからなくて……」
「どうした。なんかあったか」
聞く赤城に、うららが恥ずかしそうに目を伏せた。
「……私、高校生にもなって、まだヒートが来ないの。病院にも行ったけど、大人になるまでヒートが来ない人もいるから大丈夫だって言われて……いつどこでヒートになるかわからないから、怖くて……」
確かに高校に入学してからというもの、うららが休暇制度を使っているところを見たことが無い。
赤城と涼華はヒートで休んでいるが、うららだけは休んでいるところを見たことが無いのだ。
聞いたことはあれど見たこともなかった特殊体質のΩが、こんなところに居るとは。芸能人で、ヒートがまだ来なくて、ということはヒートに任せてセックスなんかもしていないであろう清純なΩ。属性盛り盛りである。そんな奴、ほんとに存在すんのかよ。いや、ここに存在した。
「つってもなー。ヒートって、毎回来るようになりゃ感覚で分かるようになるけど、初ヒートはどんなもんか感覚じゃわかんねーよ」
「だよなー。俺なんか中一の時教室でいきなりなって最悪だったわ。まぁ教室全員Ωだから別に良いんだけど」
木野崎と赤城がうららに話してみせる。
「アーシは昔αのカレシと一緒の時に初ヒートなったからラット騒ぎになってちょっとした事件になった」
涼華も話す。そう、初ヒートが来た時にαと一緒に居たりなんかしたら、抑制剤を飲んでいても何が起こるかわからないのである。
「俺は……Ωの子とセックスしてる途中に初ヒートなったから随分盛り上がったな。無理させたけど」
「お前は昔からアホだったんだな」
俺の回想に木野崎がツッコむ。
「なんか……身体がゾクゾクするのが収まらなくなったりとか、熱っぽいとか、下っ腹痛てぇとか、そういうので大体わかるようになるけど……」
木野崎の言葉に、うららが今一つピンと来ていない表情をする。
「てか、仕事は?芸能人って、Ωも多いけどαも多いっしょ。αと一緒んときに初ヒートなんてなったら大惨事じゃん」
「うん……そうなの。現場に迷惑かけるわけにはいかないし……」
涼華の心配に、うららが項垂れる。
「初めてのヒートは、誰でもわかんねぇからな。高校卒業まではバースごとにクラス別れてるし、それまでにヒート来ればいいんじゃね?」
そういう俺に、うららはおずおずと頷いた。
「だ、だよね。高校卒業までには、来るかもしれないし、心配しすぎだよね」
「まぁ、仕事場じゃしゃーねーけど、学校じゃなんかあっても俺らが一緒に居るからさ」
赤城がカラッと明るくフォローした。
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