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第三章 第33話

「お前ら抑制剤、飲んでんだろ!ラットは、起きてねえはずだ。目え覚ませっ」  俺は叫ぶ。 「……今更、おせえっ!Ωのフェロモン……嗅いだだけで、こんなっ……」  京本が腕に縋りついていた木野崎の両腕を捕まえて床に引き倒した。  葛飾を捕まえていた俺も、動きを徐々に抑えられて、葛飾が俺に馬乗りになった。 「……逃げたあいつじゃなくても良い。俺らは、このままヤれるなら文句ねぇよ」  京本が木野崎の腕をギリギリと締め上げる。 「やだっやめてっ」  うららの泣き声が響く。 「……、……それはマズい。京本、そいつと交換しろ」  葛飾が変なことを言う。 「いくらなんでも近親相姦は、ヤれねぇ」  葛飾が、俺の目を見てはっきりそう言った。 「オイ!!そこで何やってんだ!!」  講堂の入り口から、怒鳴り声がした。 「篠原……!」  αクラスの担任、篠原だ。 「相浦!!木野崎!!」  俺達の担任、春崎も続いて登場する。  篠原と春崎がこちらに向かって走ってくるのがわかる。  篠原も春崎も、βだ。αの力には、敵わない。  それでも男4人で抵抗すれば、いくらαでもこちらが勝つ。  取り押さえられた葛飾と京本は、教師たちによって保健室へ行くことになった。  両腕を後ろ手に拘束されたまま二人は連行されていく。  俺と木野崎とうららは、そのまま講義を受けることになった。  泣き止まないうららが合流した涼華に抱き着く。  事情を知らない赤城と涼華は、目を白黒させていた。  委員長は、どうなったのかわからない。委員長の行方は、篠原と春崎が探すと言っていた。 『番関係を結ぶことによって、Ωは自分の番にしかフェロモンが効かなくなります。つまりΩは番を獲得することで、望まない相手をフェロモンで誘惑しなくて済むようになるということですね。これはαが一人のΩを自分だけのものにすることができるということでもあります。えー続いて、番契約の形態について。Ωは生涯一人のαとしか番契約できませんが、αは複数のΩと番契約を結ぶことができます。契約は、解除ができません。近年複数の研究室では番関係が及ぼすαとΩへの不利益を原因とする番関係の解消をするための実験を行っています。しかし番関係の解消にはΩの負担が大きく、最悪死に至ることから研究は難航しています。しかし将来的には、あと十年程度で番関係の解消が実現できると言われています。続いて、運命の番や相性の高いαとΩ間の関係における通常の相性の高さのαとΩ間の関係と比較したときの優位性について……番と結婚や恋人などパートナーの同一化や非同一派の現状について……』  大学教授であるらしい初老の爺さんが、マイクを通してぼそぼそ長々と話し続ける。  たまに切り替わるスクリーンには文字がびっしりと詰め込まれていて、講義用の資料とはとても思えない。  講義終了後には講堂に戻ってきていた篠原と春崎によって、プリントが配られる。 「今日の講義について、感想や今日の内容のまとめをレポートにして各担任に提出するように。期限は木曜だ」  葛飾と京本、委員長のいない講義は幕を閉じる。 「はーっ。疲れた……」 「お前ら、何があったんだよ。うららは泣いてたしさ」  赤城が俺たちに質問するが、あんなことがあった後では答える気力も湧かない。  うららは、口にするのも怖いのだろう。ただ震えるばかりだ。 「だいじょーぶかよ、うらら」  涼華がうららの顔を覗き込む。  うららはうん、と頷いて、「ありがとね」とまた涼華を抱きしめた。  結局、うららの初ヒートはまだだった。あんなことがあっては初ヒートに対するうららの恐怖心は倍増しているだろう。 「まぁ、言えないならそれでいいけどよ。苦しくなったら、言えよ」  赤城が俺達を励ます。 「あっ、春崎!委員長は?」  木野崎が春崎に声をかける。 「先生を付けろ。……結局、見つからずじまいだ。保健室にもいなかった。先生から親御さんに連絡はしてみるが、どうなるかはわからない」 「……そっか」  春崎が篠原と共に去って行く。 「委員長?委員長がどうかしたの?」  騒ぐ赤城をはたいて黙らせ、俺達は教室へ向かう。  結局委員長は、帰りのHRの時間になっても教室へは戻ってこなかった。

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