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第三章 第35話

「今日は帰りのHRで3学期から活動する生徒会長・副会長を決める生徒会選挙の為のクラス回りがある。しっかり立候補者の話を聞いて、投票当日までに備えるように。生徒会は全クラス回るから来るまでお前らは待機だ。帰りは遅くなるが我慢しろよ。HRが長引く分、補習は今日はナシ」  春崎がHRを終える。  この学校の生徒会は、3年次でも活動があるが、大学入試に向けて3学期からは引退するのだという。だから2学期の末に入りかけたこの時期に生徒会選挙を行い、2年の生徒会が生徒会長と副会長を引き継ぐのだ。  選挙には2年の生徒会全員が立候補し、クラス回りは1年から3年までの生徒会全員で行うという。  こういうのは全校集会で演説をするのではと思ったが、投票は別日だしクラスごとに集計するから、クラスごと回って演説をするらしい。  生徒会は、1年の時に入ったら3年までそのまま同じメンバーが続けるらしかった。 「2年の生徒会って、何人いるんだろうな。全員立候補って、それ強制だろ」 「な。名前とか顔とか、覚えられる気、しねぇよ」  ぐだぐだする俺と赤城。 「1年のβクラスは4組もあるのに生徒会、2人しか参加してないらしいぜ。2、3年もその調子なら5、6人程度だろ」  木野崎が言う。 「お前それ、どこ情報だよ。よく知ってんな」 「中学からのβの友達が言ってた」 「βに友達なんか居るんかよ。異バース間交遊じゃん」 「茶化すな」  俺と木野崎はじゃれる。  生徒会の面々は、通常のHRの時間から40分も遅れてやってきた。これでも急いだほうなのだろう。2年生は、手には自分の選挙ポスターを丸めて持っている。  3学年全員の生徒会が一気に来るというから、どれくらい多いのかと期待していたが15人程度しかいなかった。  その内2年の生徒会委員は4人。αなのかβなのかΩなのかは、見た目だけではわからないが、一人明らかに体格が良いのが混じっているのでそいつだけはαであろうと予測できる。立候補者たちも、わざわざバースを名乗ったりはしない。  立候補者たちは、演説をすべて暗記してきているようだった。自分のポスターを手に、はきはきと公約や目標を演説していく。  演説が終わると、教室内はパチパチと拍手で溢れかえった。 「じゃあ生徒会の皆さんは投票日に向けて準備していただいて。今日のHRはこれでお終いだ」  春崎が椅子から立ち上がり大きく伸びをする。  生徒会は、1年Ωクラスの生徒会委員二人も含めて、教室を後にする。  一番前の席に座っている俺に、葛飾が寄ってくる。 「よお、兄弟」 「……どういう意味だよ」 「そのままの意味だよ」  そう言って葛飾は去って行く。 「相浦君、久しぶり」 「羽田さん」 「僕ら3年の任期はあと少しだけど、困ったことがあったらいつでも言ってね」 「ありがと。羽田さん」 「じゃあ」  生徒会を率いていた会長と副会長のうち、副会長の羽田が俺に話しかけ、会長に呼ばれて走って去って行った。 「あれ、どういう意味?」  隣の席の木野崎が俺に聞く。  あれ、とは、葛飾のことだろう。  俺だって知りたい。  でも、じっと探して見れば、言われてみれば、心当たりは今までにいくつかあったのだ。  俺は、葛飾のことを誰かに似ているが誰に似ているのか思い出せないような顔の奴、だと思っていた。  誰に似ているんだ?  深く、考える。 『葛飾君と相浦君って同じタイプのイケメンっていうか……アタシらのタイプなんだよね』 『ねっ』  過去のクラスメイト達のセリフが頭の中にフラッシュバックする。  そうだ。葛飾が誰に似てるって。周りの奴らでさえ、そう思うほどに。  毎朝鏡の中に映る俺……、自分に似ているんだ。  それに、俺には父親が居ない。木野崎のように、親が離婚したとか、そういう話ではない。生まれたときからいなかった。  父親は、俺ができたときは高校生だったため、母が父との結婚を拒否したのだと聞かされて育ってきた。  その父親が、よそで子供を作っていたとしたら。  同じ学校の、それも同じ学年に兄弟とも呼べる人間が居たとしても、おかしくはない。 『いくらなんでも近親相姦は、ヤれねぇ』  葛飾のセリフにも、納得がいく。  俺は一人っ子だ。  別れた父親のことを今でも大事に思っているであろう母親は、父と別れた後、誰とも一緒にならなかったからだ。  そんな俺にもいるかもしれない。  別れた父親によって生まれた、俺と血を分けた、家族。  そして葛飾に頼れば、父と会うことだって叶うかもしれない。  ともすれば、母と父を合わせることすらも。  俺は毎日一緒に帰っている木野崎を一人で先に返し、αクラスへと出かける。  生徒会から帰ってきた葛飾は、ちょうど帰る用意をしているところだった。 「葛飾。話がある」 「……さっきぶりだな、お兄ちゃん」

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