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第三章 第36話

 俺と葛飾は、近くのファストフード店へと寄った。  注文したセットを受け取って、席に着く。  4人用のテーブルだが、葛飾との距離感はこれぐらいが良い。 「高校入学してすぐ、Ωクラスにすげーイケメンがいるってお前が話題になった時から俺は、気付いてたよ。一目見ただけで、わかった」  葛飾は話し始めた。 「その顔だ。……これ、見てみろ」  カバンから生徒手帳を取り出し、生徒手帳のカバーの透明部分に挟まれた写真を葛飾は俺に見せた。  それを見た俺は動揺する。 「これ……、俺……?」 「ちげえ。俺らの、父親だ」  そこに映っていたのは、俺とうり二つの、言われなければ自分の写真と見間違うくらい俺に似た男だった。  怖えぇ。俺も、こんな顔して映ってる写真、あるよ。  そんなセリフが喉元までこみ上げる。  俺に似た男と、もう一人、小柄な男。そして幼い葛飾と、もっと小さな、葛飾の弟と妹であろう子供が二人。5人、写真には写っていた。 「普通は他人の空似かと思うかもしれねぇ。でも、お前はあまりにも……父親に似すぎた」  じっと俺の顔を見つめる葛飾は、続ける。 「昔からよくあったんだ。親父の不倫相手が刃物片手に突撃してきたり、昔の相手が家に押し掛けてきたり……な。俺に、弟と妹以外に兄弟がいるって気づいたのは、小学生の頃だった。親父が昔孕ませた女が、ガキ連れて親父を頼って訪ねてきた。そいつは女なうえにΩだったから、一人で子育てするには限界だったんだろう。その後も親父が捨てたΩとその子供が何人か俺達の前に現れた。  Ωは受胎率が他のバース性と比べて段違いに高い。だから一回の浮気や寝た相手を孕ませたまま親父は捨ててた。両親の恋愛話なんざ興味はないが、中学に上がる頃には、その事情がもう分かるようになっていた。  お前以外にも、俺達には他に兄弟がいる。相浦、お前は俺より誕生日が早い。俺は早生まれだから、ギリギリ同じ学年になった。  俺の親父は遊んだ相手を捨ててた。たとえ子供ができてもだ。俺の母親は、男Ωだが、親父の本命相手だった。何度浮気しても、親父はお袋の所に戻ってきて、結局結婚して、俺と弟と妹が生まれた。今も5人で幸せに暮らしてるよ。たまに親父が浮気するけどな。俺たち親父の子は同じ血が通ってる分どっか似てるとこはあるが……お前ほど似てんのは、初めてだ」  俺はと言えば、頭が追い付かない。  葛飾の身の上話は別にどうでもいい。  重要なのは、葛飾の親父が遊んでいて、遊んだ相手を捨てていたということだ。たとえ、子供ができたとしても。俺は、その浮気相手の子供だということだろう。  受け入れ難い現実に、身を震わせるしかない。  それに、葛飾は父親の本命相手だという母親と、家族と共に幸せに暮らしているという。 「……俺は、俺が母ちゃんのお腹にできたとき、親父は責任とって結婚してくれるって言ったけど、母ちゃんが断ったんだって、聞いて育ってきた」 「あの親父がか?ありえねーよ」  葛飾がその顔に軽薄な笑みを浮かべた。 「母ちゃんは、父親のことが大好きだったから手放したんだって。父親はまだ若かったから、家庭に縛り付けるわけにはいかねぇからって、母ちゃんが親父を手放したんだって」  葛飾は、少し考える様子を見せる。 「……俺の両親は、デキ婚じゃねえよ。ちゃんと恋愛して、それから結婚してる。お前ができたときには、親父はもうお袋と付き合ってたろうな。……お前の母親は、確実に親父の遊び相手で、捨てた相手だ」 「でもうちの母ちゃん、親父のこと大好きで、今も他の奴と結婚せずに一人でいる。一人で俺のこと、育てた。多分今でも、好きなはずだ」 「あんな奴に操立てて独り身かよ。言っとくけどうちの親父は、お前が想像する数倍最低だぞ」 「俺のことも、親父に似てるから大好きなんだって、すげー大事に育ててくれた。母ちゃんは親父のことを守って別れて、俺は大事な奴との子供なんだって」 「そう聞いて育ったのか」  おめでたい話だな、と葛飾が笑う。 「お前の母親は、多分妊娠して捨てられた。俺の母親は、俺の親父に“選ばれたΩ”なんだよ。お前の母親は、親父に選ばれなかった。それだけだ」

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