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第三章 第37話

 葛飾にしてみれば、ちゃんちゃらおかしな話だろう。  父親は、遊んだ相手を捨てていた。葛飾の母親を残して、他に例外はない。  きっと俺も、何人もいる「捨てられたΩ」の子供だったということだろう。  母親は、ずっと噓をついていたのか。  何人もいる、遊び相手のうちの一人。  結局選ばれず、捨てられて、腹の中には俺が居て。好きな相手は、他に夢中な相手がいる。恥ずかしくて、悔しくて、誰にも相談できなかったかもしれない。  爺ちゃん婆ちゃん……親にはどう説明するか、迷ったはずだ。  そして結局、俺が爺ちゃんと婆ちゃんから聞かされて育った「娘の話」は作り上げられた。  日々父親に瓜二つな俺の顔を見て過ごす。年齢を重ねて成長していく俺はどんどん父親に似ていく。そんな俺を見ながら生活しなければならない母親は、辛かったはずだ。  無理矢理番にされて、他に結婚できなかったという可能性はないか。  ……いや、俺の母親のうなじに噛み痕は無い。葛飾の言う通り、本当に親父に操立てて独り身を貫いているだけなのだろう。  葛飾の話を聞く限り、父親は相当なクズだ。  そんな男の一体どこが好きで……いや、俺は本当に、母親に愛されているのだろうか。  普通に考えたら、恨んでいてもおかしくない。  自分を捨てた相手との間に生まれた子供のことなんて、純粋に愛せるはずがない。 「お前は……お前の家は、幸せなのか?」  葛飾に聞く。 「まぁ人並みには幸せだろ。親父とお袋が不倫だなんだで時々ものすげー喧嘩するけど、あの親は喧嘩しても結局元のさやに納まるようにできてんだ。弟も妹ももうでかくなって手もかからないし、毎日フツーに幸せだよ」  愛し合った両親のもとに生まれた子供。  葛飾は、父親と母親が両想いの末できた子だ。  俺とは、違う。 「……親父さんに、会えるか?」 「親父?帰りおせーし、無理だな。お前が俺の家に泊まり込むっつーなら話は別だけど」 「……そうか」 「会って何するつもりだよ。復讐とか?」 「んなことは、しねぇ……」 「じゃあ母親の方か?お袋にも何もしねぇって約束するなら、連れて行ってやってもいいけど」 「危害を加えようなんて、思ってねえよっ……」  ただ。  母親からの愛を、信じられなくなった。  だから両親の愛の元に生まれた葛飾が、どんなふうに親から接してもらっているのか、気になった。  愛に大きさなんてもんは、ない。それでも葛飾と自分とは、違うのだと思い知った。 「……ふーん。じゃあ片づけて準備しろよ」 「なっ、なにが……」 「行くんだろ。俺んち」  葛飾がカバンを肩に背負って、席を立った。

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