37 / 60
第三章 第37話
葛飾にしてみれば、ちゃんちゃらおかしな話だろう。
父親は、遊んだ相手を捨てていた。葛飾の母親を残して、他に例外はない。
きっと俺も、何人もいる「捨てられたΩ」の子供だったということだろう。
母親は、ずっと噓をついていたのか。
何人もいる、遊び相手のうちの一人。
結局選ばれず、捨てられて、腹の中には俺が居て。好きな相手は、他に夢中な相手がいる。恥ずかしくて、悔しくて、誰にも相談できなかったかもしれない。
爺ちゃん婆ちゃん……親にはどう説明するか、迷ったはずだ。
そして結局、俺が爺ちゃんと婆ちゃんから聞かされて育った「娘の話」は作り上げられた。
日々父親に瓜二つな俺の顔を見て過ごす。年齢を重ねて成長していく俺はどんどん父親に似ていく。そんな俺を見ながら生活しなければならない母親は、辛かったはずだ。
無理矢理番にされて、他に結婚できなかったという可能性はないか。
……いや、俺の母親のうなじに噛み痕は無い。葛飾の言う通り、本当に親父に操立てて独り身を貫いているだけなのだろう。
葛飾の話を聞く限り、父親は相当なクズだ。
そんな男の一体どこが好きで……いや、俺は本当に、母親に愛されているのだろうか。
普通に考えたら、恨んでいてもおかしくない。
自分を捨てた相手との間に生まれた子供のことなんて、純粋に愛せるはずがない。
「お前は……お前の家は、幸せなのか?」
葛飾に聞く。
「まぁ人並みには幸せだろ。親父とお袋が不倫だなんだで時々ものすげー喧嘩するけど、あの親は喧嘩しても結局元のさやに納まるようにできてんだ。弟も妹ももうでかくなって手もかからないし、毎日フツーに幸せだよ」
愛し合った両親のもとに生まれた子供。
葛飾は、父親と母親が両想いの末できた子だ。
俺とは、違う。
「……親父さんに、会えるか?」
「親父?帰りおせーし、無理だな。お前が俺の家に泊まり込むっつーなら話は別だけど」
「……そうか」
「会って何するつもりだよ。復讐とか?」
「んなことは、しねぇ……」
「じゃあ母親の方か?お袋にも何もしねぇって約束するなら、連れて行ってやってもいいけど」
「危害を加えようなんて、思ってねえよっ……」
ただ。
母親からの愛を、信じられなくなった。
だから両親の愛の元に生まれた葛飾が、どんなふうに親から接してもらっているのか、気になった。
愛に大きさなんてもんは、ない。それでも葛飾と自分とは、違うのだと思い知った。
「……ふーん。じゃあ片づけて準備しろよ」
「なっ、なにが……」
「行くんだろ。俺んち」
葛飾がカバンを肩に背負って、席を立った。
ともだちにシェアしよう!

