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第三章 第38話
葛飾の家は、電車で向かった。小学校も、中学校も、区域が被らない。交流のある近隣の小中学校よりももっと離れている。これだけ離れていれば、今まで出会うこともなく育ってこられたのにも頷ける。
「ただいま」
葛飾が玄関からどすどすとリビングへ向かって歩いていく。
「おかえりー……って、帰り一緒だったのか?今日はずいぶん早いな。つかなんか、小さくなった?」
葛飾の母親が出迎える。
Ωらしいが、見たところ普通の男だ。
俺を目でとらえて、困惑したような表情でうーんと悩みだした。
「なわけねぇだろッ。制服見ろ。同級生だよ。親父じゃない」
「あっ……え?」
「俺達のお兄ちゃん」
葛飾が親指で俺を指す。
お袋さんの俺を見る目が、凍るように冷たくなった。
「……また、あいつの……」
「そういうことだから。俺はお兄ちゃんと一緒に遊ぶから、部屋来んなよ」
葛飾が俺の腕を引き自室へと向かう。
部屋に入ると、ベッドと勉強机の他には、床に服や雑誌が散らかっている。
「椅子とかクッションとかねーから、ベッドに座れよ」
「あ……ああ」
「飲みモン持ってきてやる。食いもんは、さっき食ったから要らねえだろ」
「うん」
俺は床にカバンを下ろし、ベッドの端に腰掛ける。
「ヤベー。お袋めっちゃ怒ってるわ。お前ほど似てんのは初めてだし、驚いたんだろうな」
飲み物を持って帰ってきた葛飾が、机にお盆ごと乗せた。
「……怒ってるのか」
「たりめーだろ。お前、見てくれからして十中八九親父の浮気相手の子だしな。あの夫婦は何回浮気視されても、何回浮気しても懲りねーんだよ」
「葛飾は」
「何?」
「親から愛されてると……思うか?」
「は?」
葛飾がポカンとした時だった。
「お兄ー!!昨日あたしのプリン食べたっしょ!ふざけんなよ!!弁償か金返せよ!!ちび兄にももう確認取ったから!証拠上がってんだよ!」
バンと扉が開き可愛らしい女子中学生が部屋に入ってきた。
葛飾の妹だろう。見せられた写真よりもずいぶん大きくなっているが、面影がある。
「……って、え?」
妹は、俺の顔を見てぎょっと固まった。
「……は?何?怖……」
ゾッとした様子で言い出した妹の背中を葛飾が押し返しながらなだめる。
「プリンな。俺が食った。買いなおしてやるから今は部屋戻っとけ」
妹を部屋から押し出して、ぱたんと扉を閉じる。
「わりーな。うち、部屋に鍵付いてねえから。……で、なんだっけ。親に愛されてると思うかって?なんだそれ」
「俺は……母親に物凄く愛されて育ってきた。でも全部、嘘だったのかもしれないと思って」
静かに語る俺の横に、葛飾が座る。
「俺は、愛されてるよ。そんなもんどこの家族も似たようなもんだ。人並みだ。……お前んとこはどうだか知らねぇけど、お前が愛されて育ってきたって言うなら、お前もそうなんじゃねえの?」
「そうかな。……俺、葛飾に聞いたみたいな話、母親は俺にしてこなかったから。ずっと嘘で俺を、守ってくれてた。俺がお前の父親にこんなに似てるなら、俺を育てんのは、辛かったはずだ」
「それはお前の母ちゃんにしか、わかんねえだろ。幸せだったかもしれねえだろ。少なくともうちに突撃してきた親たちは、親父のこと恨んでるばっかりじゃなかったぜ。もちろん恨んでる奴も、中にはいたけど」
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