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第三章 第39話

「……そうか」 「そうだよ。つーか俺、兄弟だって黙ったまま何度も相浦に会いに行くの、結構気まずかったし、これからは兄弟仲良くしようぜ」 「葛飾」 「ん?」 「話してくれて、ありがとう」 「……別に。知りてー話でもなかっただろ。正直講堂の時のあの一件がなけりゃ、俺はずっと黙ってお前の傍に居るつもりだったよ」 「それは気持ち悪いからやめろ」  俺は葛飾の目をじとっとした目で見上げた。 「……やっぱそんなに、似てねえかも。お前の方が親父より美形だ」  そんな俺を見て葛飾が言う。 「当たりめーだろ。俺はハイブリッドだからな」 「んだそれ……」  困惑する葛飾に向かって、俺はふふんと自慢げに鼻を鳴らした。 「お前のお袋さん、Ωだっつってたけどめちゃくちゃフツーの男じゃねえか。俺の母ちゃん、Ωの中でも相当な美人だぞ。お前の父親と俺の母ちゃんから生まれた俺が並大抵の美形なはずがねえんだよ」 「は、はあ?」  葛飾に、俺はスマホで母親とのツーショットを見せた。 「っ、美……っ!!いや、これお前の妹か姉ちゃんじゃねえの?」 「俺は一人っ子だ。これは母親」 「すげえ……見えねぇ……」  目を剝く葛飾に俺は微笑みかけた。 「俺の母ちゃんを捨てたお前の父親より、俺の方がイケメンなんだよ」 「……ちげーねぇ」  頷いた葛飾は、ぐうと唸った。 「じゃあな、気を付けて帰れよ」  葛飾が俺を見送りに玄関を出てくる。 「いつかDNA鑑定がしてーってお前の父親に言っといてくれ」 「そんなもん取って何する気だよ……金か?養育費なんてうちにはねーぞ」 「ちげーよ。ただ確認するだけだ」 「……わかった。またな、お兄ちゃん」 「学校で次お兄ちゃんって呼んだらぶっ飛ばすから」  俺は葛飾の家を後にする。  普段使わない路線の電車に乗ったので帰るのに少し手間取った。  家に帰るともう既に19時を過ぎていて、帰宅していた母親がぱたぱたと走って俺を出迎えた。 「あんた遅くなるなら電話くらいしなさい!心配したじゃない!」  母親は心底、俺を心配していたようだった。  これは絶対、嘘じゃない。  母は、俺のことを愛している。恨んでなんかいない。  かつて俺という存在がいることで、母は傷付いたこともあったかもしれない。  それでも俺を、ここまで文句一つなく、立派に育ててくれた。  女手一つで、しかもΩ。そんな母親が子供一人抱えて生活するのは、大変だったに違いない。 「母ちゃん、ありがとう」 「えっ?なに急に」 「べつに!腹減ったー」  葛飾から聞いた話は、母親には言わない。  俺はこれからも、「娘の話」に騙されて、いっぱいの愛を受けて育った子として生きて行く。

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