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第五章 第51話

 5人組の中で俺達の関係をカミングアウトしてから、随分時が過ぎた。  あれから2年。俺たちは高校3年生になっていた。  俺が以前俳優2人との3人で撮ったCMは好評を成し、同じシリーズの別商品のCMが同じメンツで、新メンバーも加えながら続いている。化粧品のCMとあって、顔より上がアップで映る機会が多く、「ガチ恋距離」の俺が見られるとのことでCMは好評だ。  うららと俺が一緒に出たラブコメドラマは、ゴールデン帯だったこともあって別仕事のオファーが寄せられるきっかけとして成功した。  うららはそのままモデルとしても、女優としても邁進。俺の予想通りというかなんというか、うららはまだ初ヒートを迎えていない。多分本当に、大人になってからヒートが来るのだろう。その時にはもう既に、αの誰かと番になっているかもしれない。  俺はといえば身長が174㎝で止まってしまい、大抵175㎝は必要になるモデルの仕事は俳優業の傍ら、特集を組まれたり、雑誌に呼ばれたりする程度。俳優部門のゲストとしてランウェイを歩くこともあるが、雑誌の専属モデルに……なんてことにはならない。176㎝ある木野崎にも、身長では勝てない。こんなちょっとの差、見た目じゃわかんないけど。仕事になるには1㎝でも足りなきゃダメなんだと痛感した。  今は現役高校生の俳優として、時々実年齢よりも何歳も年上の役をこなし、子役出身や大人たちの間で揉まれながら芸能界を生き抜いている。事務所の方針で俺は舞台にはあまり出させてもらえないので、映像の仕事を引っ張ってこられるように演技のレッスンを日頃から受けている。  俺とうららがセット売りされていたのももう昔の話で、俺達が付き合ってるだとかそんな話ももうネットの隅っこにも上がることは稀だ。  俺達ももう高校3年。芸能人としては、もうすぐ“学生ブランド”という美味しい肩書を失うことになる。  見た目が重要な職業でもあるので、美形が多いΩも沢山いる分、俺のようなαみたいな顔のΩは“Ωブランド”も使えない。そのうえ大人になればなるほどα達のようなカリスマ性なんかも必要になってきて、仕事をただこなすだけでは苦しくなってくる。つまりこれからは、実力で勝負。  ドラマの撮影現場。  俺は木野崎をちょいちょいとジェスチャーで呼ぶ。 「カラー、外して」 「ん」  木野崎がチェーンのネックレスに通した鍵で、カチッと俺のカラーを外す。 「うわっ、あの噂、本当だったんだ」 「百瀬さん」  近くに居た俳優が珍しいもんでも見たかのように俺達を茶化した。若手俳優ばかりが所属する、俳優グループの中の一人だ。 「噂?」 「一人じゃなんもできなくて、仕事現場でも友達にべったり……って。噂になってますよ。この人、マネージャーじゃないんでしょ」 「あー……」  木野崎は、大抵の現場には俺と一緒に来ている。  これは高牧さんにマネージャー助手に任命された時から変わらない。そういうことで話が通っているし、俺も木野崎も一緒に居られるならずっと一緒にいたいのだ。  友達にべったり。そう噂はされても、誰も俺達が付き合ってるとは言わない。Ω同士で付き合うはずなどないと考えているからだ。 「俺、オンとオフ激しくて……」  そう言って濁す。  本当のことでもあるが、嘘でもある。  俺はオンオフでできることが変わるようなタイプではない。調子はずっと一緒だ。  ただし見た目のせいで物食わなそうとか、性欲無さそうとかファンの間では言われているが、実のところ馬鹿話を大声でするタイプだし、仕事がある前日でも木野崎とセックスする。オフのこの俺の本性は、仲の良い人間しか知らない。 「え~……それにしても、関係者でもないのに、ずっと一緒に居て、いいんすか?」  百瀬は23歳だが、俺の方が先輩だからか、敬語で話してくる。 「こいつは俺のボディガードだから。関係者なんですよ」 「ぼ、ボディガード?でもカラー付けてるし……お友達もΩっすよね?」 「αと同じくらい強いんで」 「んな、馬鹿な」  笑われるが、これは本当のことである。  高校生も半ばに成長期を迎えた木野崎は、元々怪力気味だった力がさらに強くなった。  大抵のΩは、αに力では敵わない。木野崎だけは、例外だ。αと互角の力を持っている。  俺はカラーを付けたままではやっていけない職業だから、外している時は木野崎が見守っている。実際、ロケ地で初ヒートの通行人に巻き込まれてαのスタッフが発情し暴走したときには、木野崎がそのΩを助けたこともある。普通のα相手にそのくらい強いので、内向型のヒョロヒョロのα相手なら、木野崎の方が強い場合もある。 「……お名前は?」 「なんですか?」 「お友達の名前も知っときたいな~と」 「木野崎です」  木野崎が答える。 「下の名前は?」 「光輝です」  次々に質問されるので、俺は疑問に思って聞き返す。 「こいつの名前なんか知って、どうするんですか」 「いや……俺、αなんですよ」 「はあ、そうですか」 「Ωの、しかも二人ともDK……友達同士のセット売りで3P……とか。超燃えません?」 「は?」  頭湧いているんだろうか。 「はぁ、エロ……Ω同士でそんだけ仲いいのとか、百合百合しくて余計クるっつーか。両方ともうなじ噛んで両手に花の番ハーレムとか、ね。αからしちゃ、あんたらみたいなの、食いもん以外のなんでもないっすわ」  そう言って俺の顎を掴んでくる百瀬の手を俺は叩き落す。 「ね、琉人君、光輝君。連絡先交換しましょ」 「結構です」 「いいじゃないっすか。ねっ。」  食い下がってくる百瀬の声を押しのけるようにして、スタッフの声が響いた。 「本番行きまーす」

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