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第五章 第52話
βクラスにはクラス替えがあるらしいが、母数の少ないαクラスとΩクラスは3年間同じクラスだ。それぞれ一組しかないから。
赤城はヒートで学校を休んでいて、うららも仕事で補習ありきの休みを取っている。
「百瀬、しつけぇ~」
「俺んとこにも連絡来るわ」
結局、あの後押し切られて百瀬と連絡先を交換した俺達は、百瀬から送られてくるメッセージに悩まされていた。
百瀬と共演したドラマは1月から放送となっている。もう放送は始まっているのにまだ最終回まで撮り終わっていなくて、百瀬とはこれからも顔を合わせる機会が多い。
「百瀬って?」
涼華が興味を示したようだった。
「百瀬竜彦。若手俳優ばっかりが所属してる俳優グループの奴だよ」
百瀬が所属する俳優集団は、このグループで舞台を丸々一つ勤め上げたり、グループ内ユニットで音楽活動をしたり、ピンで出演したドラマのメイキングでもグループの話題を口に出してグループ活動に還元したりと、グループということを生かして知名度を上げる手法の売り出し方をしている。
そんな人気急上昇中の俳優グループの一員とあって、デビューして1年ちょっとの百瀬は俺のような野良の俳優とも張るぐらいの主要キャストにキャスティングされている。
今回のドラマは、主人公が詐欺師。
主要キャストも、全員詐欺師。詐欺師が表社会や裏社会の悪い奴らから金を巻き上げる痛快サスペンス……なのだが、新人と呼べるぐらいの芸歴なのは俺と、百瀬だけ。あとは長年俳優として活躍している俳優陣ばかりで、ヒロインも有名な女優だ。
そのせいもあってか、百瀬は俺に引っ付いてくる。
たしかに、ベテランばかりに周囲を囲まれて、先輩といえど年下の俺には話しかけやすいのだろう。
「よく知らねーけど、聞いたことあるわ。そのグループって所属俳優がαばっかだって、話題になってた」
涼華が言う。
そういったバース性が目玉のグループは、珍しくはない。αしかいないアイドルグループや、その反対でΩしかいないことを売りにしているグループもある。そう言うとβは肩身が狭い世界に聞こえるだろうが、この業界で活躍するβはその“αブランド”や“Ωブランド”に負けないくらい何かしらに特化した魅力を持っている場合が多いので、βも負けてはいない。ただ、αやΩのようにβだけを集めたグループというのは、中々無い。
「そういえば、αだって言ってたな」
俺は思い返す。
「で、その百瀬がなんなの?」
涼華の一言に、俺達は事のあらましを説明した。
「え……っ。キモッ。そんな奴ブロックしろよ」
涼華は百瀬の発言にドン引いて、眉根を寄せている。
「それがまだ撮影終わってなくて、これからも顔合わせなきゃなんだよ。クランクアップしたら即行ブロックしてやるのに」
「なんかされたらどーすんだよ。アンタ、光輝に張り付いとけよ」
「それがさ……」
木野崎は、受験シーズンなのである。
俺は高校卒業後、俳優業に専念するつもりだ。俳優や女優をやりながらでも大学に通えんことはないが、知り合いの大学に通った経験のある俳優女優達は仕事で単位が取れず何浪もして卒業している人が結構いる。俺はうららほど忙しくはないものの、俺だって仕事で学校を休んでは補習授業を学校側に準備してもらって何とかやっているのが現状だ。木野崎もそれに付き合ってくれている。Ωは元々補習と縁があるものだとはいえ、中々キツイ。早退も多いし、今日みたいに、のんびり学校に居る日ばかりじゃない。うららだって、大学に進学する気は無いだろう。
そうなると問題になってくるのが、木野崎のマネージャー助手問題である。有名になった後うららは、兼任マネージャーでなく専属マネージャーがつくことになり、高牧さんの担当から外れた。俺は高牧さんに一人で見てもらえるようになり、こちらも専属マネージャー。俺の正式なマネージャーは高牧さんなので、木野崎が居なくても回ることは回るのだが、ただ俺と木野崎が一緒に居られなくなるのだ。
木野崎が大学に入ってからじゃない。受験シーズンの今からもう、それは始まっている。
「木野崎が、俺と一緒に居られない時間が増えるだろ。大学に通い出したら、マネージャー助手は卒業だし……。俺、どうしよう」
「……とりあえずカラーは、自分で外せるようになんねーとな」
木野崎がチャリ、と俺のカラーの鍵をチェーンごと寄越す。俺は既につけているチェーンと二重に重ね付けた。
「お前の鍵は、俺が持ったままでいいよな」
俺は木野崎に確かめる。
「ああ。俺のカラー外せんのは、お前だけだ」
なんでもないことのように木野崎が言う。
「バカップルだな。……何の話してたっけ」
涼華が不思議そうに呟いた。
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