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第五章 第55話
「いやあ……だから二人ともべったりだったんすね」
帰ってきた百瀬は賢者タイムに突入したのか、いくらか冷静になっていた。
「大体、マネージャー助手とかボディガードとか意味わかんねーしおかしいと思ってたんすよ」
「他の人には言わないでくださいね。言ったら俺ら見てアンタが勃起して俺らのことオカズに抜いたことも言いふらすから」
「コエーな。……心配しなくても言いませんよ。秘密の関係知れて、俺のポジションって結構役得?みたいな。他の人は、光輝君のこと、琉人君のマネージャー兼友達だと思ってるんですよね」
「まあ、そうですね。小さい頃はそうでもないけど、社会に出たらΩ同士で付き合ってるとか、あんまり無いし」
「Ωはαのモンっすからね」
百瀬の言い方にちょっとムッとする。
αには、どこかこういう驕りのようなところがあるのだ。そしてそれを当然だと思っている。
「でも、俺、琉人君のことも光輝君のことも両方好きになっちゃったんで」
「両方好きにって……」
「本気ですよ。両方とも番にしたいぐらい。なんか困ったことあったら言ってください。俺一応、αだし。助けになれる時は頑張りますよ」
「……どうも」
一応、礼を言っておく。
百瀬は俺達の関係を把握して、それも秘密にしてくれるという。
これから長い芸能人生の中で、百瀬のように言い寄ってくる輩は何人か出てくるだろう。そいつらは百瀬のようにすんなりと引き下がってくれる奴ばかりじゃないだろうし、Ωだけの力ではどうにもならないことも増えるはずだ。
αの百瀬の協力が得られれば、どうにか切り抜けられることも増えるかもしれない。
それに、百瀬が所属する若手俳優グループの中で、百瀬は結構目立つ立ち位置だったはずだ。グループの中でも、同じ舞台をやっても主要キャストに抜擢されるメンバーと端役を任されるメンバーに分かれる。百瀬は、主要キャストにキャスティングされる側の人間だ。今回のドラマのようにピンで推されることも少なくない百瀬は、グループの中じゃ結構人気な方だ。つまり、αとしてはどちらかといえば“強いα”なのだ。
頼りないαなら頼っても仕方がないが、強いαがバックに居るとなると話は変わってくる。百瀬は俺よりも後輩だが、年上だし、グループ売りで売れている分影響力がある。知名度や事務所の権力がモノを言うこの業界で、百瀬みたいな奴が味方になるのは都合が良かった。
「……じゃ、交渉成立っすね。俺が二人のことを黙ってる代わり、なんかあったら俺を呼ぶこと。絶対っすよ」
「それ、あんたに旨味殆どないじゃないですか」
「大ありっすよ」
そんな話をしながら俺達は飯屋を後にした。
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