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第五章 第57話
映画やドラマの番宣が無くても、時々テレビ番組にゲストで呼ばれることがある。
今日はスタジオで男性アイドルグループの中から数人の選抜メンバーと、タレントたちと一緒の収録。元アイドルのバラエティタレントだったり、フリーアナウンサーなんかもタレントたちに混ざって談話する。
木野崎は春休みを終えるまでは、マネージャー助手を続けると言ってくれたので、今日も一緒。
複数人で一緒の楽屋。
アイドルグループの今回選抜メンバーだという3人組が、俺達の所に挨拶に来てくれた。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
これで終わりかと思ったら、その内の一人が俺の側に残った。
「……あの、俺の名前知ってますか?」
「えっ」
知るわけがない。
アイドルには詳しくないし、流行にも敏感な方じゃない。
「……中垣って言います。名前、覚えて欲しいです」
「ああ、勿論です。中垣さん、よろしく」
俺は笑って対応する。
「……あの、事務所一緒なんですけど」
「えっ」
急に飛び出てきた情報に俺はドッと冷や汗をかく。
マジかよ。事務所一緒なのかよ。知らなかったじゃ失礼にしかならない。
正直に言うと、俺は俳優なのでステージ活動が中心のアイドルとはこれといって接点が無い。俳優の活動もやるいわゆる“演技ドル”であれば話は別だが、目の前の彼はそうではないだろう。
「……俺、ずっと前から相浦さんのこと憧れで。雑誌のグラビアとかも買って、大事に持ってます」
「そ、それはどうも……ありがとうございます」
俺に対して敬語だが、見た目も加味して、アイドルということは20代前半ぐらいだろう。
「あのっ、また共演できるように頑張ります」
中垣はそう言って去って行った。
「お前のファンか。良い人そうじゃん」
木野崎が言う。
「だといいんだけどな」
そう俺は返した。
収録は無事に終わり、俺は今後のスケジュールを見直す。
半年前に撮り終えていた映画の番宣が始まるらしい。
映画の番宣は基本的には主演俳優と主演女優の2人で出るが、俺も番宣に出る機会がいくつかあるらしい。
番宣に出ると言っても直近のものは3本撮りの中の1本だけに出る予定だ。
他の2本のゲストが誰だか俺は知らない。
あの一件以来頻繁に連絡を取っている百瀬が、『その番組、俺も出ますよ!収録日一緒になるんじゃないですかね』とメッセージを送ってきた。
百瀬もおそらく何らかの番宣だろう。
楽屋はそれぞれ違うが、百瀬が俺の楽屋に遊びに来る。
「琉人く~ん光輝く~ん会いたかったっすよぉ~」
「暑苦しい」
俺達は二人纏めてハグしようとしてくる百瀬を押しのける。
「ハァ~。二人は俺の癒し!今日も可愛いしエロいし文句ないっすわ」
「まだ俺らのこと好きなんですか?」
「もちろんっす。二人の絡み想像して夜のオカズにもしてるっすよ」
「グロいな」
俺と木野崎は一歩下がって百瀬と距離を取る。
と、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
俺は声をかける。
「あっあの、この前はお世話になりました。中垣といいます」
そこに立っていたのは例のアイドルグループの中垣だった。
収録3本のうちの1本は中垣で、俺と百瀬も含めたこの3人が今日のゲストなのだろう。
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