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第6話

でも、助かった。 たぶんいま美緒に触れられたら、明日美の事を思い出して涙を堪えきれないだろうから。 チャイムがなって、皆が教室に入って席に着く。 僕達も席に着いた。 ****** 一日の授業が終わって、帰りのホームルームの時間。 なんだか今日は、ずっと憂鬱だったな。 窓を見るとどんよりとした曇り空。 降りそうで、なかなか降らないけど、ジメジメした空気。 まるで僕の心の中みたいで、嫌気がする。 皆が下校するか部活に励む中、僕は中庭に出る。 思っていた通り。 中庭の描写なんて漫画には無かったけど、そこにあったのは僕が通っていた高校の中庭そのままだった。 たぶん、漫画で描写されなかった部分は、僕の記憶で補正されているらしい。 明日美とこの中庭のベンチで、お弁当を一緒に食べたことを思い返す。 あの時はまだ、僕が不治の病にかかるなんて思いもしなかった。 ベンチに座って、空を眺める。 同じ景色なのに、同じ場所じゃない。 不思議な感覚だ。 そもそも、この世界が現実なのか、夢なのかも分からない。 頬をつねると痛い。 聡介や美緒も、ちゃんと意志を持って生きている。 でも、ここに明日美や僕の両親はいない。 僕、新井康太も居るはずもない。 皆、今向こうの世界で何をしているんだろうか。 「僕、帰りたいな」 無理な話を空に向かってしてみる。 返事なんかするわけないのに。 ザアア、と淀んだ雲間から耐えかねたように大雨が降る。 冷たい雨が制服に染み混んでいく。 目頭が熱くなって、涙が滲んで、そっと目を閉じた。 「ひいらぎ!」 大きな声で呼ばれて、目を開ける。 聡介が脱いだジャケットを被って、駆け寄る。 ジャケットで僕を覆って、雨が遮られる。 「風邪ひくぞ。中に入ろう」 ふ、と優しく目を細めて僕を見下ろす。 「う、ん」 それ以上喋ると嗚咽が漏れそうで、こくこく、と頷いて顔を手で覆う。 肩をぎゅ、と腕を回されて引き寄せられる。 俯いたまま、聡介と一緒に校舎の中に入った。

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