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第7話

教室に入ると座って、と椅子に促される。 聡介の席。昔の僕の席と、同じ場所だ。 ポケットからハンカチを取り出して、雨に濡れた僕の頬や首を優しく拭う。 心地よくて、されるがままじっとしていた。 「あ、これ新品だからな」 「いいよ、そんなの。……楠木くんも濡れてるのに」 「俺は風邪ひかないからいいんだよ」 「はは、そうだね。楠木くんは、強いし。運動もなんでも出来て、いつも笑ってて、輝いてて、いつだって僕の理想なんだ」 「なんだ、そんな風に思ってくれてたのか。でも、俺は柊が思ってるほど良いもんじゃないぞ」 「……そうなの?」 「嫉妬深いし、大事な人を傷つける奴は絶対に許さない」 「なんか、意外だな。そっか、そうだよね」 僕が描いた描写や設定も超えて、聡介には聡介の心がある。 夢なんかじゃない。 この世界も、ここに住む人達も。 聡介だってちゃんとここで生きている、現実なんだ。 「……中井さん、僕の大事な人に凄く似てるんだ。今日、その人の事を思い出してた。僕のせいでずっと辛い思いをさせてたのに、もう会うことは出来なくて、何も出来ない自分が凄く嫌なんだ」 入院生活の日々の中、明日美だけがほとんど毎日面会に来てくれていた。 一度、面会のあと、病室の外で一人泣き崩れていた明日美を見た事がある。 ずっと辛い気持ちを押し込めて、僕の前では笑ってくれていた、優しくて強くて、清らかで美しい人。 そんな人に、あんな顔をさせたまま僕は去ってしまった。 何も、出来なかった。 手を取られて、ぎゅ、っと暖かい手に包まれる。 「大丈夫だ。柊。会えなくても、きっとその人とはどこかで繋がってるはずだから。今出来ることは、その人の想いを大切にすることなんじゃないか?」 大丈夫だ。 ハッキリと断言する聡介に、呆気にとられる。 根拠は無い。でも、大丈夫だとこうもハッキリ言われると、なんだか大丈夫な気がしてくる。 「そうだね。大事にする」 ここで、この健康な身体で。 新たな人生を、歩み始めようと思う。 明日美、僕はここにいるよ。 確かにあなたと過ごしたこの学校のある世界の中で。

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