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第24話
しばらくして美緒が部屋に戻ってくる。
「ごめん二人とも、急遽バイト交代してって連絡きちゃった!ごめん、行ってくるわ」
バタバタと荷物を纏めて急いだ様子で部屋を出る直前、聡介に「じゃ、頑張って!」と意味深な笑みを浮かべてさっさと出ていってしまった。
「なんだあいつ」
聡介が呆れたようにため息をつく。
突然二人きりで部屋に残されてしまってなんとなく焦る。
美緒が居てくれたことでなんとか普通を保てていたけど、美緒が居なくなってその均衡も無くなってしまった。
「なあ、柊」
名前を呼ばれてびく、と身体が跳ねる。
あの告白の返事を聞かれるんじゃないかと思って身構える。
「な、なに」
「もっかい説明しようか?」
ページを指差して、そういった聡介に勉強の事かと安堵する。
「ああ、うん」
身を乗り出して説明してくれる聡介。
有難いんだけど、さっきより近い気がする。僕の肩が聡介の胸辺りに当たる。
必死に説明に集中して、言われた通りに問題を解く。
すると、あれだけ難しかった問題がするすると頭に入っていって答えが出た事に、少し嬉しくなる。
「どう?わかった?」
「凄い!めちゃくちゃ分かりやすい!」
興奮してパッと顔を上げると、間近に聡介の整った顔があって、一瞬息が止まる。
顔を逸らそうとすると、聡介の大きな手で顎を抑えられて阻止された。
「あの返事、まだ?」
やっぱり告白の事を聞かれて、なんとか平穏を保っていた心臓がまたどきどきと忙しなく鼓動を早くする。
それでも、告白のことを忘れられて無かったことに少し安堵している僕がいる。
「えと、あの、僕っ」
「ん?」
ぐい、と顔を近づけて、唇が触れそうな距離に心臓がどきどきする。
「っ、楠木くん、恥ずかしい」
「なんで?」
「ち、近いから」
「近いとダメか?」
「だって、き、キス、するのかなって思っちゃうっ……」
「ふ、正解だな」
その瞬間、唇が唇に触れて熱を帯びる。
心臓がばくばくとうるさい。不整脈で死んじゃうんじゃないかってくらい、体がおかしくなる。
「んっ、ふぁ、楠木くんっ」
「息止めてる?かわいいな」
「僕っ、慣れてないから、こういう事」
「俺もだよ。柊、好きだ。柊は俺の事、好き?」
頬を優しく撫でられて、優しい声色に胸が暖かくなって心地好い。
無意識に頬をすり、と手に擦り寄せる。
「ん……好き。楠木くん」
僕の理想で、僕の憧れで、僕の夢だった人。
そして、今、目の前で嬉しそうに笑うのは、僕の大好きな人だ。
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