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第29話
聡介side
更衣室で着替えていた時、明らかに顔色の悪い柊に心配になって声を掛けたが、うまいこといなされてしまった。
何より、柊が大丈夫だというのに無理を言って授業を受けるのを辞めさせるのも違うと思って、俺は見守るしかなかった。
柊は平気そうに振舞っているけど、心配だ。
案の定、サッカーの授業が始まってふらふらと足元のおぼつかない柊に冷や冷やさせられる。
柊にパスがまわった時、遂に柊が限界を超えて倒れ込んだ。
「柊!大丈夫か!」
駆け寄るけれど、柊の意識はない。
額を触るともう微熱とは言えない程熱い。
「先生!柊、保健室連れていきます!」
柊を両手で背中と足を支えて抱き抱える。
いわゆるお姫様抱っこで、柊の意識があったら顔を赤くさせて焦りそうだな。
でも、いまの柊は顔色も悪く、意識は無く静かに抱えられている。
「おお、頼んだ」
体育の先生も生徒達も心配そうに柊をみている。
保健室まで運ぶと、先生が慌てて柊をベッドに寝かせる。
額に手を当てて、「すごい熱ね、こんなに無理して……寝てるだけみたいだけど、今は安静にしてないといけないわね」
担任に報告してくるから、少し見ててくれる?と言われて、先生は保健室を後にする。
こんなに無理しなくても良いのに。
2年の初めの頃、バスケの授業で柊が皆とバスケ出来て嬉しいと言って泣いていた事を思い出した。
一生懸命に得意でもない体育の授業をこなしている柊の姿に、胸を打たれた。
他の生徒だって、そう思った奴はいただろう。
「柊はいつも一生懸命だな」
そんな柊が可愛いと思い始めたのは、何時からだったか。
汗で額に張り付いた横髪を払う。
透き通るような白い肌。ふと、夢に出てくる康太と呼ばれている男の子を思い出す。
やっぱり、似てるな。
見た目というより、雰囲気が似ている。
先生の足音が聞こえて、手をひこうとすると、柊の手が伸びて掴まれる。
「明日美……」
そう言って目尻から涙を流す柊に、驚いて時が止まったのかと思った。
「いま、なんて」
明日美、夢に出てくる女の子のことを康太がそう呼んでいた。
訳が分からない。
あの夢は、夢じゃないのか――?
どうして柊は明日美の名前を呼んで涙を流すんだ?
柊は明日美と康太の、一体何なんだ。
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