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第32話

翌日の昼休み、売店で飲み物を買いたくて校舎を出る。 売店は別の建物として独立しているので、いちど後者を出なければいけない。 売店のすぐ横が数段階段を下がってグラウンドになっている。 明るいミルクティー色の髪の生徒にすぐに目がいく。 圭太だ――。 グラウンドの端で1年の生徒に何やら引き止められているようだった。 圭太は困ったように眉を下げて首を振っている。 何かを断ってる? ふと目が合って、手を挙げて僕に合図する。 手を挙げ返すと、にこ、と笑ってずんずんこちらに歩いてきた。 「俺この子に用事あったんだ!じゃあねー」 「えー先輩待ってくださいよー」 「こんど!お願いしますね」 「カリスマにしか頼めないんすからー!」 口々に後ろから名残惜しそうな声がする。 そんな彼らに手をヒラヒラ降って僕の肩に手を回してさっさと歩いていってしまう。 「あの子たち良かったの?」 「んー?いいのいいの。サッカー教えろって煩くてさ。もう現役じゃないし、カリスマって言われてたのも過去の栄光的だし」 困っちゃうよね、と苦笑する圭太に僕は笑えなくてでもなんて声をかけたら良いのか分からなくて口を噤む。 「ね、それよりさ」 ぐい、と腕を引かれて校舎裏に引っ張り込まれる。 壁に追いやられてドン、と顔の横に手をついて距離を詰められる。 突然のことに驚いて肩が跳ねた。 「楠木と付き合ってるってホント?」 首を傾げて、顔を覗き込まれる。 「そ、そうだけど、なに?」 「男もいけるってことなら、俺じゃダメなの?柊くんって、可愛いよね」 「何言ってるの、圭太」 シャツに手を入れられて、腹を撫でられる。 「わあ、すべすべ」 「っ、圭太、やめて」 圭太の胸を思いっきり押して、触れていた腕を払い除ける。 「あは、冗談じゃん。本気にしすぎ」 へら、と貼り付けたような顔で笑う圭太に、胸が痛む。 僕は、圭太の胸ぐらを掴んで引っ張った。 圭太は驚いたように目を見開いて僕を見る。 「ねえ、前言ったよね。真っ直ぐ続いてる目の前の道がいきなり真っ暗になる恐怖、僕にもわかるって。すごく怖くて、辛かったんだって。……圭太は今も辛いんだよね。僕ね、もう僕には何もないんだってあんなに思ってたのに、今はさ、楠木くんや美緒や皆と出会って、僕はいまなんでも出来るんじゃないかって思ってる。すごく不思議だよね」 掴んでいた服を離して、バンパン、と払って整えてやる。 「圭太もいつかそうなるんじゃないかな、嫌でも。時間はかかるかもしれないけどね」 そう言って僕はその場をさる。 圭太は唖然として、僕を追いかけようとはしない。 そして、僕に聞こえない声でぽつりと呟いた。 「まいったなあ、ほんと」

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