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第34話
次の競技は借り物競争で僕が出る種目だ。
集合場所にいこうと席を立つと、美緒や聡介、クラスのみんなに頑張れと口々に声を掛けられた。
「うん、頑張ってくる」
手を挙げてその場を後にする。
入場と共に音楽がなってグラウンドを走って入場する。
みんな定位置について、競技が始まる。
いよいよ二年の番になって、僕もコースに立つ。
コースの途中にお題の書かれたカードが伏せられていて、そのお題に沿ったものを持って行かなければゴールできないシンプルな競技だ。
パン、と開始の合図がなってみんなと一緒に僕も走る。伏せられたカードを拾って見る。
このお題に沿ったもの。
今の僕にとってそれは、一つしか思い浮かばなかった。
迷わず一直線にその人のほうへ走った。
「きて、楠木くんっ!」
「っ、おう」
逞しい腕を掴んで引っ張る。いきなりのことに戸惑いながらも、一緒に走って着いてきてくれる聡介。
「え、なになに」
「やだ、青春ですかー?」
周りが冷やかすように声を掛けてくる。
これまでで1番盛りあがっているかも知れないんじゃないか、とさえ思う周りの湧きように、少し恥ずかしい。
でも、その手を離さずにしっかりと掴んで走った。
審査員の生徒のほうまで走って、お題のカードを渡す。
「B組の柊くんは学校一の人気者、楠木くんを連れてきました!そのお題は――、1番綺麗なもの!柊くん、このお題に楠木くんを選んだ理由を教えてくださいっ!」
審査員をしている生徒が僕に嬉々としてマイクを向ける。
「楠木くんの…………少し焦げた肌も、短くて黒い髪も、広くて逞しい背中も、絵に描いたように綺麗な全てが、僕の憧れで、理想で、夢なんです。……だから僕が1番綺麗だと思うのは、楠木くんです」
はっきりとそう言った僕に、隣で聞いていた聡介が少し顔を伏せて、恥ずかしそうに耳まで赤くなった顔を片手で隠す。
「いいぞ柊!サイコー!」
「やばー、聡介くんめっちゃ顔赤いよー!」
周りの生徒たちが騒々しく口々に叫ぶ。盛り上がりがピークにきていた。
審査員が、聡介の様子ににやにや笑いながら聡介にマイクを向ける。
「は、ずかしー……」
と、小さな声で呟く聡介。
「良いですね!青春ばんざーい!」
審査員が一言いうと、周りの生徒たちがどっと湧いた。
******
全ての競技が終わって、体育祭が終わる。
全校生徒達で後片付けをする。
僕もグラウンドに置かれたパイプ椅子を片付けていると、聡介が声を掛けてきた。
「さっきの、めっちゃ恥ずかしかった」
首の後ろをかきながら、苦笑する。
「急でびっくりしたよね。でもあのお題、楠木くん以外考えられなかったんだ」
「嬉しかったよ、めちゃくちゃ」
目を細めて、髪をわしゃわしゃと撫でられる。
僕も嬉しくなって、ふふ、と笑った。
片付けが終わって、教室に戻る。
ホームルームを簡単に終わらせると、みんなぞろぞろと教室を出ていく。
僕もいつものように聡介と美緒と3人で帰り道を歩く。
「やー今日のリレーも盛り上がったけど、借り物競争が超良かったなあ!青春って感じ?思い出すだけで最高だわ、ありがと柊くん!」
美緒が両手で顔を覆ってきゃっきゃとひとりで騒いでいる。
聡介は呆れた表情でその様子を横目で見ていた。
少し肌寒い風が肌を撫でるように通り過ぎていく。夕暮れの空が少し薄い赤色に染まっている。
「はは、でもほんとに楽しかったな」
「そうだな」
僕がそういうと、聡介も頷く。
こんな風に、友達と帰路を歩いていることに、不思議に思う。
入院生活が長かったあの時、どれだけこんな日が過ごせることを願ったか。
こんな日々がずっと続くといいな、と思う反面、明日美や前の世界の皆の事が忘れられない。
僕はずっとこんな気持ちが続くんだろな。
過去は過去。でも無くなるわけじゃない。ずっと僕の中にあって、それは消えずに僕の礎となっている。
だからこそ、今をこうして一生懸命に生きられているんだと思う。
「柊、いくぞ」
いつの間にか歩みを止めて二人を見ていた僕に気づいて、聡介が振り返って僕に手を伸ばす。
「うん」
そう言って少し駆け足で追いついて、聡介の手を握った。
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