目を開けると、白い天井と点滴の袋が見える。 ぼんやりした意識の中で、当たりを見回す。 僕はベッドの上に寝転んでいて、腕には点滴のチューブが繋がっている。 酸素マスクをゆっくりと外して、隣をみると女の子がベッドの傍らで顔を伏せて寝ている。 その黒く艶やかな長い髪と、白く伸びた腕に懐かしさが込み上げてくる。 「明日美――？」 これは、現実なのか。 窓の外では桜の花が五分咲き程咲いていた。 「ん……あ、れ、康太っ、これ、夢？」 まだ寝ぼけている明日美がそんなことを言うから、可笑しくてふ、と笑う。 そして目が会って暫くすると、全てを理解した明日美は、両手を口に当てて固まっている。 「ただいま、明日美」 「っ！康太！こうたあっ……」 ぽろぽろと涙を流して、両手で拭う。子供みたいに泣きじゃくる明日美に、胸が痛む。 こんなに、辛い思いをさせてしまってたんだな。 暫くして主治医の先生が駆けつけてきて、親に連絡してくれたようで両親も来た。 よっぽど急いできたんだろう。いつも小綺麗にしていた母親はメイクもしていなかったし、父親は仕事を急いで抜けてきたらしいく、スーツのままだった。 「よかった、康太っ！」 「ずっと信じてたわ……っ」 そう言って抱きしめてくれる両親に、僕も目に涙を滲ませながら抱きしめ返した。 僕はあれから2ヶ月程眠り続けていたらしい。 起きてすぐに色々な検査をさせられて、数日は検査で一日が終わる日々だった。 手をじっと見つめて、聡介を思い出す。 あの日々は夢なんかじゃなかったはず。 一通りの検査結果がでて、主治医が僕のベッドの傍らに座りながら状況を説明してくれる。 僕は一時的だがかなり回復しているらしく、僕が望むなら退院していいとの事だった。 もちろん、不治の病が治ったわけじゃない。余命宣告も変わらずだ。 ドラマみたいに、目が覚めたら元気になっていた、なんて事はないらしい。 それでも退院出来ることが、すごく嬉しかった。 僕は退院を決意した。両親は不安そうだったけど、僕の意志を尊重して許してくれた。 明日美は、泣きながらとても喜んでくれた。 荷物を纏めて、ずっと過ごしてきた病室を後にする。久しぶりの我が家に帰ってきてホッとする。 僕の部屋は入院生活が始まる前の時とそのまま全く変わっていなくて、両親に感謝した。 久しぶりに、実家のベッドで眠る。 目を閉じると、あの世界の日々が走馬灯のように思い出させられる。 美緒、圭太、そして聡介――。 あの日々は、夢なんかじゃなかった。 きっと聡介にはもう二度と会えないだろう。 そう思うと、酷く悲しくなって涙が溢れた。 ぼろぼろ落ちる涙で枕に染みがつく。 「聡介……っ」 呼んでももう返事をしてくれることは無い。 その事実が僕を苦しめた。