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8-2 本当の理解のために
「……愚かな私は本気だったのだ。本気で、我々はわかり合い、愛し合えると思っていた。だがある日突然、そんな幻想は崩れ去った。彼も含めて、一部の人間が行方をくらましたのだ。そして我々の所有していた一部の宝飾品も消えた。盗まれたのだよ。父は怒り、学者たちから記録した全てを取り上げ、郷から追い出した。長達古いエルフは、彼らが初めから盗みに来たのだと言い、若いエルフは盗んだのは一部だけだと主張した。私はどちらにつけばいいか、わからなかった。あのガリア人もまた、私が授けたエルフィネ・ルコリエを持ったまま消えたのだから」
「エルフィネ・ルコリエ……」
思わず自分の胸元を見る。服の下には、セレのくれた首飾りが隠れていた。そんな俺に、セレが囁く。
「アズマ、エルフィネ・ルコリエはエルフなら誰でも作れるアクセサリーだ。けれど、私達が祈りをもって作る特別なものもある。それは愛の誓いの証でもあるんだよ」
「じゃあ、…………」
そういえば、セレがわざわざ俺のためにエルフィネ・ルコリエをもうひとつ作ると言っていたような気がする。つまり、そういう意味のものを用意しているのか。
理解して、胸がきゅうっと締め付けられる。そんなにも想ってもらえていることに、俺も応えたい。もし何もかも、本当に上手くいったら俺もこの気持ちを贈らなければ。
そしてシルヴィオさんは愛を誓った印として、人間でいうなら婚約指輪みたいなものを、ガリア族の青年にあげた。それを持ったまま、相手はどこかへ行ってしまったということだ。
シルヴィオさんは、深い溜息を吐き出し、首を振った。
「私の想いは踏みにじられた。けれど愚かな私は、それでも待ったのだ。彼がいつか戻ってくるのではないかとね。数年後、学者たちの一団が再び現れ、謝罪を共に盗まれたものを返した。一部の同行者が金に目が眩んでしまった、全て取り返して処罰した、とね。エルフは彼らを許したが……。……私の元へ、彼とエルフィネ・ルコリエが帰ってくることはついになく、およそ人間の寿命が過ぎただろう百年を待つ間、そして今に至るまでの長い時間、後悔と憎しみの中で焼かれたのだ」
「兄様……」
「セレ。お前の気持ちはよくわかった。しかしその人間から私と同じような思いをさせられた時、それでも後悔はしないか。その男を憎みはしないか」
その問いかけに、セレは俺を見つめた。そんなことはしない、と俺が言うのは簡単だ。でも所詮、俺たちは別の人格だ。まして、明日がどうなるかなんてこと、それこそ神様にしかわからないだろう。
それでも、信じるしかない。お互いを。
「……はい。私はアズマを信じます。たとえ裏切られたとしてもその時は……。私は受け入れます。自分の信じた選択と結果を」
それは俺も同じだ。
俺にとっては長い人生のうちに。なにが有るかもわからない。でもその時の選択を大切にしたい。悩むことも、苦しむこともあるかもしれないけど、これが俺の選んだ道だ。それに責任を持ちたい。
「……そうか」
シルヴィオさんが、ようやく俺たちのほうを向く。その顔には昨日のような敵意や怒りは見えない。しかし俺たちのことを祝福しているようにも見えなかった。
もしかしたら……憐れんでいるのかもしれない、と感じる。そんな憂いを帯びた表情をしていた。
「わかった。私はもう口出ししない」
「え……」
「君たちの自由にしなさい。私は少しの間ここに滞在して、郷へ帰ろう」
「シ、シルヴィオさん、許していただけてありがとうございます。ですけど……いいんですか、本当に。昨日はあんなに反対していたじゃないですか」
認めてもらえたことは嬉しいけど、あまりにも対応が変わりすぎている。許された、というより、諦めたのならそれはそれで納得していいのか、微妙なところだ。
セレも似たような考えのようで、ちらりと俺を見てからシルヴィオさんへ問いかける。
「兄様、何か御心の変わることでもあったのですか?」
「…………」
シルヴィオさんは少し考えるように、街の方へ視線を向ける。
色々していたものだから、既に太陽は昇りきり、傾いていた。明るい街並みは人類たちが協力して築き上げた、コンクリートと電気、そしてみんなが平等に扱うマナに溢れている。
「……昨晩は、ガリア族の青年に泊めてもらってな。……「あの男」に少し似ていたのだ」
「え?」
「それに随分よくしてもらった。色々なことを思い出して、懐かしかったものだ。あの裏切りがなければ、こんな日々を過ごしていたのかもしれない、とな……」
シルヴィオさんの話を聞きながら、俺は口元に手を当てる。
ガリア族の青年? 見ず知らずのエルフに声をかけて、お節介を焼くような、この街に住んでるヤツ。
心当たりがありすぎた。
「シルヴィオさん、昨日お世話になったそのガリア族って、ライガって名前じゃないですか?」
「……何故、それを?」
「それ、俺の友達なんです!」
「何?」
シルヴィオさんも驚いていたけど、俺だって同じだ。彼がシルヴィオさんと交流してくれたおかげで、俺たちの話し合いも上手くはいってるんだから。またたくさんお礼をしなきゃいけない。
ライガはやっぱりいいやつだ。ガリア族だからって誰もがアイツみたいに、優しいわけじゃないだろうに──。
……ん? ガリア族……!?
俺はハッとしてシルヴィオさんに問いかけた。
「あの、エルフは思い出を忘れないって言ってましたよね。それに好きになった相手もガリア族だったって」
「……そうだが、何だ? 私がかつての想い人と君の友人を重ねた愚かな男だと笑いたいのか?」
「いやいやいや、違います! あのっ、その御相手の人、名前は覚えてますか? フルネームで」
シルヴィオさんは、それを聞いて何になる、とでも言いたげな顔をしていたけれど、小さく
「ラゼル。ラゼル・アードラーだ」
と答えてくれた。
「っ、よし……っ!」
俺は慌ててスマホを開く。ライガにメッセージを打ち込んでいると、セレが「アズマ?」と不思議そうに声をかけてきた。きっとシルヴィオさんも俺が何をしたいのかわからないはずだ。
「シルヴィオさん、俺に数日時間をください! もしかしたら、なんとかなるかもしれません!」
「なんとかなる、とは?」
問いかけに顔を上げると、シルヴィオさんは怪訝な顔をしている。俺は、高らかに宣言する。
「ラゼルさんのこと、もしかしたらわかるかもしれません!」
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