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花の主人公 2
「ジョルシヒン・リウムです。よろしくお願いします!」
明るく柔らかくそれでもはっきりとした発音で、まるで花でも咲いたような声で挨拶をされると思わず言葉を詰まらせてしまった。
遠目からでもサラツヤ感が分かる栗色の髪に、金色に輝く瞳。
白い肌に華奢な肢体、真新しい制服が少しだけ浮いて見えるような初々しさ。
それでも赤い唇に浮かべられた屈託のない笑顔には、何も思っていなくてもつい釘付けになってしまうオーラがあった。
主人公だ。
明らかな色塗りの気合いの入り用にイオンは何の迷いもなくそう思ってしまった。
「いお…、イオンです。リチャーデルクス・イオン…です…」
イオンは思わず辺な笑みを浮かべながらも、急に部屋に現れたbit数の桁違いの人間に挨拶を溢した。
そんなに髪の毛一本一本綺麗にグラデーションがかけられていることがある?
という程の高クオリティグラフィックに瞬きを繰り返してしまう。
「リチャーデルクス様…」
「いや…イオンでいいですよ…全然」
「…十家の方と同室なんて思わなくて…失礼があったらごめんなさい」
リウムはそう言いながらぺこりと頭を下げてきた。
年度の途中ではあるものの、彼は今日から学園に編入してきたのだ。
編入生というだけでも充分すぎるのに、どうやら貴族の出では無いらしいし
もうその見た目だけでも役が完成している。
しかしそんなどう見ても主人公のリウムが何故か同室になってしまい、
何が起こっているのか、と混乱しかけているイオンだった。
確かに他の生徒は二人部屋ないし三人部屋なのに、入学時からイオンは一人で変だとは思っていたのだ。
ベッドも机もクローゼットも二つあるのに、と。
ただ人数的な事なのだろうと解釈していたのだが。
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