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麗しの婚約者 2
「お隣…よろしいですか?」
「あ…はい…」
イオンが頷くと、生徒は隣の席へと着席する。
ここしか空いていなかったのかもしれないが、
一番後ろなのに視線が集まっておりイオンは居辛さを感じてしまう。
こういうのは今日二回目だった。
しかし、彼が注目の的なのは入学当初からなので仕方がない。
彼は別のクラスの人間だったが、当然その噂は学園中に広がっている。
何故ならレンシアという生徒は次期皇帝の婚約者だからだ。
貴族であれば婚約とかいうものもザラにありそうだったが、彼の場合は次期皇帝という下手をすれば国家を揺るがす存在なので当然どこに行っても目を向けられてしまうのだろう。
イオンもついつい隣を盗み見てしまった。
どこか憂いを帯びた紫色の瞳、長い睫毛は金色に輝いていて
この光量抑えめの地下室でも太陽のように輝いている。
その風格はまさに、と言ったところでもあるが
レンシアはどこか幸薄そうな雰囲気を纏っていた。
それをよく解釈すれば、儚い、とかアンニュイ、みたいな表現になるのかもしれないけど
席に着くや否やノートを何冊も広げて、まだ授業も始まっていないのにしきりにペンを動かしている様はなんだか必死にも見えた。
「やれやれ……新入生諸君…毎度言っておるが
疎通の魔法は極めて危険な魔法じゃ…」
授業開始時刻から数分遅れてやってきた教師は、ため息混じりに話を始めた。
白い口髭にローブに若干フレームの歪んだ眼鏡はフリー素材ばりの王道さである。
「どの存在と口をきくか…慎重に選ばなければならん…」
こんな調子で授業が始まった。
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