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麗しの婚約者 4
隣に座っていた生徒は名指しで当てられ、彼はノートからハッと顔を上げた。
別の勉強に夢中になっていたのか、
一瞬何が起こっているのかというような横顔を晒している彼に教室中の注目が集まる。
「あぁ…えぇっと……」
レンシアはどこか戸惑ったように恐る恐る立ち上がった。
イオンはノートの端っこに、
ツボの気持ちを読んで、と
走り書きしてさりげなく彼の方へと寄越した。
しかしレンシアは視線に晒され全然気付いていない。
重苦しい空気に耐えられず、イオンはわざと机からペンを落とした。
「……あー…ペン落としちゃった…よいしょ…」
小声で言いながら拾うと、ようやくレンシアはこちらに目を落とし
ノートの走り書きに気付いたようだった。
彼は青い壺へと目を向ける。
「……“ウェーブル出身の私がこのような扱いを受けていいと思って?サントワヌ随一の職人によって生み出され…
かつてはアレシトラ家の玄関口を飾った私が…
近頃の魔法使いときたら私の材質一つ見抜けないんですのよ…“…」
喋り出したレンシアに、老人教師は満足げに目を細めて頷いた。
「よろしい。性格や細かな名称まで上手く訳せておる
まさに上級の疎通魔法といえよう。
大人でもなかなかここまで汲み取れるものはおらんぞ」
レンシアは無事に褒められ、教室内には拍手と歓声が沸き起こった。
彼はどこかホッとしたように頷くと静かに着席した。
「皆もよいな…このように疎通魔法はただ感じ取ればいいものではない…」
教師はレンシアを題材に話を続け始めた。
事なきを得てイオンも何故かホッとするのだった。
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