35 / 513
緋色の殿下 5
「…威勢がいいのは結構な事だ。ジョルシヒン・リウム。
だが節度というものがある」
「………でも…、この学園では身分は関係ないと……」
「何?」
「ここは…ま、魔法を学ぶ為の学校で、
誰であろうとそれを妨げてはいけないのでは……」
何があったのかは分からないが口答えしているリウムに、
おいおいおもしれー女パターンじゃねえかとイオンはツッコミたかったが
この威圧感でしかない次期皇帝に補正が通じるのか疑問である。
確かに顔グラフィックは有名漫画家に監修依頼したのかというくらいの考え抜かれたイケメンといった感じだったが、
肌で感じる感覚はエンタメで昇華していいものではないというくらいの国を背負った圧を感じてしまう。
気に入らんと急に首を刎ねられてもおかしくない雰囲気に、イオンは本当に助太刀しようかと手が出かけていた。
「…あ、あの…エルメーザ様…?お時間が…」
しかしそんな殺伐とした空気に、レンシアが飛び込んでくる。
彼はふわりとアロマ柔軟剤みたいな柔らかくて優しい香りを空気に乗せて
エルメーザの顔を覗き込んだ。
どこか不安げに、それでも優しく優雅な微笑みをエルメーザに向け
次期皇帝は婚約者のスマイルに渋々引き下がった。
「二度と問題は起こさぬよう。口答えもな」
それだけを言うとエルメーザはさっさと歩いていってしまった。
今更心臓がバクバク言い始めるイオンだったが、彼を追いかける形で走りながらもチラリとこちらを見ては
ぺこっと頭を下げてくれたレンシアに色んな意味で女神なのかと思ってしまった。
「あぁー…こっわ……
顔面偏差値高い人って黙ってるだけで心臓に悪…」
イオンは胸を抑えながらも無駄に汗が出てきてしまって、はぁ、と息を吐き出した。
しかし当の本人は不機嫌そうに唇を尖らせている。
「…ちゃんと謝ったんだからあんなに怒らなくたっていいのに…」
「一体何をやらかしたんすか…」
「……別にー」
エリカ様化しながらもリウムは歩き出してしまって、
やっぱり本来斬首の所を主人公補正だから助かったのではないかと思えてならないイオンだった。
ともだちにシェアしよう!

