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いきづまる 1

魔法には様々なジャンルがあり、疎通や守護や予想といった完全サポートキャラかつ超能力的なものもあれば 炎や操作といった少年漫画チックな戦闘力抜群のものもある。 勿論中には使ってはならない禁断の魔法や、 そもそも希少でその特性を持っている者自体が少ないというものもあった。 そしてそんな中でもまさしくこの世界でいうところの “選ばれし者”が持つという魔法が“癒し”の魔法であった。 RPGであればまず間違いなくパーティに一人はいるであろう回復系魔法である、“癒し”の魔法は やはり現実ではチート級の代物らしく、 使える人間は数百万人に一人いるかいないかというような超レア魔法で 癒しの魔法を授かった人間は速攻王室付きと言われるほどのものらしい。 更に言えば、時代に一人、強力な癒しの魔法を授かった人間が誕生し、 その人間は“大天使の生まれ変わり”と呼ばれ 皇帝の伴侶となる事が約束されているのだという。 かつて、“大天使の生まれ変わり”は生まれる前に予言やお告げによって特定され、 また本人も自覚している事が多かったが いつからか予言やお告げが降りてこなくなり、 本人は無自覚というパターンが多くなってきているらしい。 その所為で何年も生まれ変わりが不在となり、 皇帝は別の人間と婚姻をするという事も普通になっている。 前回“大天使の生まれ変わり”と思しき人間が現れたのは先先代皇帝の時代、 つまり次期皇帝エルメーザの曽祖父の代だ。 そして百何年振りに現れた“大天使の生まれ変わり”というのが エルメーザの婚約者のレンシアという事らしい。 確かにレンシアの天界住民っぽさは異常だとイオンは感じたが、 大天使の概念は地球とは少し違っていそうでもある。 しかし“生まれ変わり”というものが認知されていて、 なんだか壮大な扱われ方をされている世界というのは間違いない。 イオンも“生まれ変わり”といえばそうなので、シンパシーを感じてはいるのだが そもそも男しかいないこの世界の子孫の残し方とはと疑問に思っているイオンだった。 もちろんそれを解説した授業があったが それはローラの話ばりにスピっており なかなか地球の哺乳類的な考え方ではついていけそうにないものだった。 それに、現代日本における保健体育の授業のような感じで もうみんななんとなくわかってると思うけど…ぐらいのノリで行われ、 これを基本概念として…と話が続いていき、 イオンにとっては全くもって説明不足と言えるものだった。 授業を受ければ受けるほどこの世界の仕組みや概念についてそもそも躓いてしまうので、 イオンは仕方なく放課後に図書室へと赴いた。 前提としてのこの世界においての人間の生まれ方を学ぶべく ななさいでもわかる赤ちゃんの作り方!みたいな本を見つけ出してきて、 流石に恥ずかしかったので図書室の端っこで背中を丸めてそれを読んでいるのだった。

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