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癒しの魔法 1

疎通という魔法は不思議だけど、現代日本における空気を読むと いう行為になんとなく近いかもしれない。 今機嫌が悪いのかどうか、とかなんとなく好意を持たれていそうとか、何かを探しているのかもとか 言葉にされなくとも雰囲気でなんとなく読み解ける。 犬や猫といった言語が通じない相手だって、好かれているかどうかくらい分かる。 疎通はそれがもっと分かりやすくなっているような感じだ。 そして生物だけでなくモノや空間にもそれを感じ取れる、といったところか。 イオンにとっては日本人だった時の空気読みの延長のような感覚が大きいが、 確かに時々言語のような感覚で分かることがあった。 優秀な疎通魔法使いはもっとはっきり聞こえるらしいし レンシアが授業でやってみせたように、 上級疎通魔法は本当に実際に喋っているように口調や性格まで解る上に こちらからも話しかける事も出来るようになるらしい。 イオンもなんとなく椅子や食器や壁に対して練習してみてはいるものの、 はっきりと言葉を聞き取れる事は今の所皆無だ。 だけどなんとなく綺麗にして欲しいとか、 もう少し日当たりのいいところにいたいとかそんなような雰囲気は感じ取れるので 気が付いたらそのようにやってあげたりするのだ。 それは現代日本で限界孤独人をやっていた井小田が、 遂に家電に話しかけていた事を思い出して複雑にもなってしまうのだが。 「あー…もうすぐ定期テストやねぇ」 食堂で昼食を食べている最中、実に学生らしいコメントを呟いたのは、 同じクラスのイヴィトだった。 イオンは入学当初から結構彼と仲良くしていて、守護の授業でも同じなので共に行動する事も多かった。 イヴィトは目を引く赤茶色の髪と浅黒い肌に体格もそこそこしっかりしていて如何にも陽の者の雰囲気を纏っており クラス内序列上位ランカーだとトラウマを思い出して最初は恐れていたイオンだったが 話してみると彼は意外にもまったりとした性格で穏和だった。 地方出身らしく時々訛っていて、 それが関西弁にも似ているのでちょっと可愛いとイオンは感じてしまうし 体格の良さからスポーツ系の部活にひっきりなしに誘われているようだったが、 誰かと戦いたくない…、と言って断っているらしい。

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