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癒しの魔法 6
しかし確かめないわけもいかず、震える手で彼に触れようとすると
誰かが駆け寄ってきた。
「リチャーデルクスさん…」
声をかけられて顔を上げると、そこにはレンシアが立っていた。
彼は床に座り込み倒れている生徒を迷いなく助け起こす。
助け起こされた生徒は他学年なのか見知らぬ顔だったが、血で顔面が真っ赤に染まっている。
「あなたは怪我をしていませんね?」
「あ…はい……」
「よかった、ではすぐに離れてください。危ないですよ」
レンシアはそう言いながらも片手を生徒の上に翳した。
彼の手からは薄桃色の優しい光が溢れ出す。
離れろと言われたがイオンは思わずその光に釘付けになっていた。
見たこともないくらい美しい輝きは、死体のように動かない生徒を優しく包んでいく。
「癒しの魔法だ…」
「あれが奇跡の力…」
「なんと神々しい…」
相変わらず仕事ができるモブ達によって、それが噂の癒しの魔法だと思い知る。
確かに奇跡だと言われてもおかしくはないほどだ。
だけどレンシアはどこか苦しそうに眉根を寄せ、唇を噛み締めている。
「……レンシアさん…?」
結局イオンは神々しい光が無くなるまでそこから一歩も動けなかった。
レンシアが、はぁ、と息を吐き出すと
固く目を閉ざしていた生徒がごほ、と咳をして血が吐き出される。
生徒は起き上がると暫く咳き込んでいたが、周りの様子に気がつくと不思議そうな顔をしている。
「一体なにが…?」
そんな事を言い出す始末だ。
「よかった……」
レンシアはホッとしたように微笑んだが、
その額や首筋には異常なほど汗が溢れていて高熱の時のように顔も若干赤くなっている。
すぐに人間が駆け寄り、渦中の生徒は連れ去られていき
イオンの元にリウムとイヴィトも駆け寄ってくる。
「大丈夫?イオンくん」
「ああ、うん…俺は何も…ちょっと腰抜けちゃってて」
白状するとリウムは心配そうにイオンの背中に触れてくれる。
「ありがとうございます…レンシアさん」
「…?あなたの…知り合いだったのですか?」
「いえ、知らない人ですけど…」
イオンが苦笑すると、レンシアはどこか苦しそうに呼吸をしながらもふらふらと立ち上がった。
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