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癒しの魔法 7

「レンシア!」 鋭くよく通る声が食堂内に響き渡る。 次期皇帝エルメーザが現れ、彼はレンシアの肩を掴むと凄まじい形相で睨み下ろしている。 「何故力を使った!?」 「何故って…放っておけば死んでしまっていたのですよ」 「勝手に使うなとあれほど言っただろう!?」 同い年なのに迫力も貫禄もレベル違いな次期皇帝の怒鳴り声にイヴィトは泡を吹いて倒れそうになっている。 「いいか、お前の魔法はお前だけのものじゃないんだ 勝手な判断で無駄にするな!」 「無駄……ですか…?人の命を救うことが……?」 レンシアはどこかギリギリで立っているようにも見えたが、 その眼差しは力強く婚約者を見上げている。 「…俺の力はあなたの…皇帝の…国のものだということは理解しています…… ですから…平等であって欲しいと思っています…」 息切れしながらもレンシアは呟き、苦しそうに胸を抑え始める。 エルメーザはますます怒っているのか彼を取り巻く空気が地獄の業火のように感じられて イオンはどうにも居た堪れなくなってしまった。 どうする?いや、考えてる暇なんてあるのか? 思考できたのは0.01秒くらいで、ほとんど反射的に体が動いてしまった。 「何を言っているんだ…!?」 「ちょ…もうそこら辺にしてやって…」 不敬罪も良いところだがそんなのは頭に無く、 今にも消えてしまいそうなレンシアを庇うようにイオンは二人の間に入ってしまった。 しかし案の定エルメーザの深紅の瞳から次期皇帝ビームを放たれ、本能レベルで恐怖を思い出してしまう。 「なんだ貴様は…部外者は口を出すな」 低い声で怒られるが、先程本当に死にかけていたおかげか麻酔のようになっていてまだギリギリ耐えられるイオンだった。

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