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癒しの魔法 9
「ちょ…ちょっと離れましょうか…」
「はァ?何を言ってる貴様…!どこへ連れて行く気だ…」
「医務室です…」
「それが誰か分かっているのか!」
レンシアの身体はあり得ないほど熱を持っていて、異常事態だと言うことがまざまざと伝わってくる。
別の形で何度も死の恐怖に晒され続けたイオンの脳は限界突破した。
「…誰かって…アタシの友達よ…」
「な…っ…?」
「自分の、婚約者でしょ…!?
モラハラも大概になさい!!
一番身近な人を傷つけて世間体ばかり気にしているようなDV男に
国を任せて良いものかどうか怪しいものよね!!?」
「なんだと……」
「アタシだったら間違いなく褒めちぎって自慢して歩くわ!!
俺の婚約者は!自分の立場を偉ぶることなく!誰に褒められずとも!
率先して人命救助に尽力する慈愛に満ちた女神だとね!!
自分の事しか考えてないどっかのボンクラ王子とは違って!!!」
イオンが半狂乱になって叫んでいると、
食堂内はさすがにざわざわし始めてしまう。
そうしている間にもレンシアの身体からは力が抜けて行くので、
イオンは彼の身体を抱え上げて食堂から逃げ去った。
走っている途中で涙がボロボロと溢れてきてしまう。
それが何故なのかは分からなかったが、イオンはレンシアを医務室へと担ぎ込むのだった。
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