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嘘つきのルート 2
「また精霊を呼んだ生徒がいるらしいぞ…」
「そこまでして点数が欲しいのかねぇ…」
定期テスト直前ということもあってか、最近学園内はピリピリしているようだった。
歩いているだけで戸惑いや疑念や焦りや憤りといった不穏な感覚が入ってきて、
レンシアは頭痛を感じながらも大きな本を両手に抱きながら教室へと向かっていた。
食堂での一件以来、レンシアは力を使い過ぎないようにと口酸っぱく言われていたが
日に日に増幅していく力に自分自身が怯えていてどうすればいいのかわからないのだ。
それは、みんなに期待されている“癒し”の力ではなく“疎通”の力だ。
聞きたくなくても様々な声が入ってくるので、
最近は何かに過集中する事でやり過ごしている。
最も学ばねばならないことは山ほどあるので好都合ではあるのだが。
「おい見ろ…あれ、次期皇帝の婚約者サマじゃないか?」
「孤児だったんだろ?卑しい身分の分際で皇室入りなんて恥知らずもいいところだよな」
「“大天使の生まれ変わり”ってそんなにいいものなのかねえ…」
聞きたくない囁き声もすぐ近くで言われているようにすら感じてしまう。
そんな事はずっとずっと言われ続けている事だ。
ただ、癒しの力を持っているだけで
見窄らしい孤児は伯爵家の養子になり、次期皇帝と婚約してしまったのだから
よく思わない人間がいて当然だ。
同じ家の中でも皇帝家の血が汚れると難色を示す人もいる。
それでも自分で決められる事ではないのだ。
誰と婚姻するか、力をどう使うかすら、
レンシアには決定権は与えられていないのだから。
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