81 / 513
嘘つきのルート 3
レンシアは三階の一番奥の部屋へとやって来ていた。
その部屋の周辺は人影も無く静かで幾分かホッとしてしまう。
「…はぁ」
ドアの前で一度息を吐いてから、レンシアは軽くノックをして中に入った。
部屋の中は窓から優しい日差しが差し込んで、
大理石の床に光を落としている。
様々な植物が並んでいて、まるで誰かの自室のようですらあった。
窓際に置かれたロッキングチェアに老人が一人腰掛けていた。
小さな体格と長く伸ばした白髪を緩くまとめて肩に流し、
穏やかな眼差しは窓の外へと注がれている。
「フェディン先生…ごきげんよう」
レンシアは彼に近付き、小さく頭を下げた。
「やあレンシアくん。もう体調はいいのかね?」
「ええ…授業をお休みしてしまい申し訳ございませんでした」
「ふむ。何よりも君の体が心配だ。
無理はいけないよ、今日も何かあればすぐに言いなさい。いいね?」
「お心遣い感謝致します」
レンシアはお礼を告げながらも抱えていた本を近くのテーブルの上へと下ろした。
「“蘇生魔法”を施したそうだね」
「……」
早速嫌な話を振られてしまい、レンシアは彼の顔を見れずに俯いてしまう。
「本来は…皇帝家にしか使ってはならない魔法だ。分かるね?」
「……放っておけなかったのです…
目の前で、誰かが死ぬなんて…」
レンシアは両手を握り締めながらも震える声を出した。
あの時の事を思い出すと恐ろしくて堪らなくまってしまう。
散乱したシャンデリアの残骸、恐怖と悲壮に満ちた食堂、
そして真っ赤な血溜まりの中に沈んだ人間。
死の、感覚。
ともだちにシェアしよう!

