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嘘つきのルート 3

レンシアは三階の一番奥の部屋へとやって来ていた。 その部屋の周辺は人影も無く静かで幾分かホッとしてしまう。 「…はぁ」 ドアの前で一度息を吐いてから、レンシアは軽くノックをして中に入った。 部屋の中は窓から優しい日差しが差し込んで、 大理石の床に光を落としている。 様々な植物が並んでいて、まるで誰かの自室のようですらあった。 窓際に置かれたロッキングチェアに老人が一人腰掛けていた。 小さな体格と長く伸ばした白髪を緩くまとめて肩に流し、 穏やかな眼差しは窓の外へと注がれている。 「フェディン先生…ごきげんよう」 レンシアは彼に近付き、小さく頭を下げた。 「やあレンシアくん。もう体調はいいのかね?」 「ええ…授業をお休みしてしまい申し訳ございませんでした」 「ふむ。何よりも君の体が心配だ。 無理はいけないよ、今日も何かあればすぐに言いなさい。いいね?」 「お心遣い感謝致します」 レンシアはお礼を告げながらも抱えていた本を近くのテーブルの上へと下ろした。 「“蘇生魔法”を施したそうだね」 「……」 早速嫌な話を振られてしまい、レンシアは彼の顔を見れずに俯いてしまう。 「本来は…皇帝家にしか使ってはならない魔法だ。分かるね?」 「……放っておけなかったのです… 目の前で、誰かが死ぬなんて…」 レンシアは両手を握り締めながらも震える声を出した。 あの時の事を思い出すと恐ろしくて堪らなくまってしまう。 散乱したシャンデリアの残骸、恐怖と悲壮に満ちた食堂、 そして真っ赤な血溜まりの中に沈んだ人間。 死の、感覚。

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