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嘘つきのルート 5

「……心得ています…」 その原理原則は魔法の基礎中の基礎だ。 個人差はあれど上限があり、魔力は感情とも紐付いているため、強い感情によって瞬間的にそれを突破することがあっても 上限を超えた数値を維持することはできない。 「魔法というものは授かり物だ。 限界値も、種類も自分で決めることはできない。 君の上位能力一位が“疎通”の事実は揺るがないのだよ…」 老人の声は穏やかだったが、それはレンシアにとっては辛いものだった。 嘘をついている。 その事を思い出してしまうから。 「さぁ、レンシアくん心を落ち着けなさい。 君が癒しの魔法を多く保有していることには変わりない。 “大天使の生まれ変わり”として、君に出来ることは数多くあるだろう。 “疎通”もきっとそれの助けになる」 「……はい」 レンシアは頷きながらも両手を握り締めて、 今にも崩れ去ってしまいそうな自分を立て直す努力をした。 波で徐々に崩されていく砂山のように、立っている足場はなんとも脆くて弱くて不安定だ。 そこに立ちなさいと、立つことが務めだと言い聞かされて来た。 それを破る選択肢なんてない。 例えどんな罪だったとしても、そこに、 立ち続けるしかない。

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