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追いつけない 1
何故自分がそんなに焦っているのか、レンシアにとっても疑問だった。
本当は、“大天使の生まれ変わり”などではないかもしれないのに、
そのように振る舞っている事の罪悪感が日に日に積み上がっていく。
エルメーザは、庶民で尚且つ孤児院の出という卑しい身分のレンシアをあまり良く思っていないらしく
口を開く度に、もっと努力をしろ、と言う。
それは、正しい事だとレンシアも思っていた。
力を得たいのであれば努力をしなくてはならない、と。
そして努力とは、どれだけ自分を削れるか、なのだとも。
癒しの魔法の授業が終わり、レンシアは昼休みも居残って修行に充ててしまった。
癒しの魔法は傷を治したり病気を治す事よりも、どちらかと言えば他人の魔力を安定させたり空間を浄化する事の方が使う機会が多い。
皇帝の伴侶となった後は、皇帝やそれを取り巻く環境をサポートするような役回りにつくことになる。
出来る限り常に行動を共にし、皇帝の魔法を支えるのだ。
しかし、蘇生魔法ほどではないとは言えやはり癒しの魔法を使うには少々エネルギーを要する。
若干の疲労を感じながらも、
レンシアはクラスの教室へと戻るべく大きな本を抱えて廊下を歩いていた。
廊下は、楽しそうに話している生徒達の声で溢れている。
家から離れ、同い年くらいの人間達と過ごす学園生活はさぞかし刺激的で楽しい事なのだろう。
だけど、レンシアにとっては青春を送る生徒達はまるで別世界にいるようにも感じてしまうのだ。
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