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追いつけない 3

「レンシア様も誘えばよかったんに、エルメーザくん」 「エルメーザくん…?」 「うーん。目の前でいちゃつかれたらエルたんのことちょっと嫌いになっちゃうかもぉ」 「エルたん…!?」 生徒二人も馴れ馴れしくエルメーザに話しかけていて、一体何が起きたのかと戸惑ってしまう。 レンシアが寝ている間に世界線がズレてしまった、なんて事になっていたりしてと焦っていると エルメーザは何故か居辛そうに目を逸らしてくる。 「……友達になったんだ…」 彼はボソリとそれだけ呟いた。 それはどこか照れているようで、彼自身も戸惑っているようでもあった。 「…そ、そうですか…それは何よりです」 レンシアはエルメーザに微笑みを向けた。 自分には全然心を許してくれなかった彼が、仲良くなれたのなら良いことではあるけど。 それはやっぱり自分が卑しい身分だからなのだろうかと思うと複雑だった。 「では…俺は先に行っていますね」 レンシアは四人にぺこりと頭を下げて、歩き出した。 エルメーザは、どんどん先をいってしまう。 勿論最初から生まれも立場も違いすぎて自分なんかが一生掛かっても追いつけるわけはないのだけれど それでも、せめてニ、三歩後ろくらいには行っておかなければと思うのに。 勉強だけできていてもいけない。 見てくれも、振る舞いも、コミュニケーション能力も、人格も。 全て完璧でなければ、 ただ契約で繋がれているだけのお荷物になってしまうというのに。 「友達……か…」 レンシアには生まれてこの方そんな人がいた試しなどなかった。 孤児院にも同い年くらいの人間は沢山いたけど、まともにコミュニケーションが取れる相手なんて数えるほどだったし。 どんなに取り繕っても、所詮は卑しい身分で、そもそも親にも捨てられた時点で 何処か欠けている部分があるのかもしれない。 そう思うと虚しくなって止まってしまいそうになるから、レンシアはなるべく考えないようにして 俯きそうになる顔を無理矢理持ち上げ、さぞ自信があるかのように真っ直ぐと前を向いて歩くしかないのだった。

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