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悪い夢 2
「……ッ…!」
目を大きく見開くと、自分の鼓動と呼吸がやたらと大きく聞こえていて
レンシアは暫く息を吐き出しながら薄暗い天井を仰いでいた。
さっきまでいた世界は夢の世界で、そう思うと安堵出来るような
それでもまだリアルな恐怖に蝕まれているような。
全身汗だくなのを感じながらも暫く動くことが出来ずにいて、
頬に触れると汗と涙で濡れていたから服の裾で拭った。
「……はぁ……」
悪夢を見るなんて今に始まったことでは無い。
だけど決して気持ちのいいものとは言えなくて、妙な違和感に苛まれる。
レンシアはようやく起き上がると、両手で顔を覆った。
「…レンシア」
小さな声で呼ばれ、そちらを見ると
エルメーザがベッドに横たわったままこちらを睨んでいた。
「…申し訳ございません…起こしてしまいましたね」
レンシアは力無く微笑み、薄暗い中でも鋭く光っている赤い瞳から逃げるように顔を逸らした。
「どうかしたのか?」
「……いえ…何でもないのです」
「本当に?」
珍しく追求してくるエルメーザに、レンシアは複雑な気持ちになってしまう。
心配してくれている、わけではないだろうけど。
「…ええ…どうか気にせず…お休みになられてください…」
怖い夢を見たなんて言ってもどうしようもない。
そんなくだらないことで彼の時間を使うわけにもいかないし、自分だってそうだ。
まだかなり早い時間だったが、もう一度寝てしまうとあの夢の続きを見てしまいそうで
レンシアは暫くそのまま座っていて、
結局勉強でもしていようと起き出して机に向かうのだった。
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